原作 マージェリィ・ビアンコ
抄訳 酒井駒子
絵 酒井駒子
発行 ブロンズ新社
初版 2007/4/
対象年齢 4歳から
文字の量 やや少なめ~やや多め
ページ数 36
発行部数 不明
オススメ度 A

ビロードのうさぎ のあらすじ・内容


クリスマスに坊やにプレゼントされたビロードのうさぎ。でも坊やは他の玩具と遊んでばかりで相手にしてくれません。

うさぎは「自分は他の玩具のように、ネジもないし、動けないし、本当っぽくない」と落ち込んでしまいます。

それを見かねた木馬がこう話します。「ほんとうのもの」というのは、ただ遊ぶ対象であるだけでなく、大切な友達なのだと。

ビロードのうさぎは、坊やにとっての「ほんとうのもの」になりたいと願いますが…

ビロードのうさぎ の解説・感想


本の帯には「酒井駒子の最高傑作」と書かれていましたが、果たして名作でした。お話も絵も、そして両者のマッチングも最高です。

ストーリーは、寂しく切ないファンタジー。やや暗いお話です。うさぎは苦悩から幸福の絶頂、次には悲劇へと突き落とされ、最後に奇跡が起きます。交響曲か何かのようなドラマチックな構成です。

原作は海外で古典的な名作という位置付けだそうですが、まさに古典文学のような普遍性を持ったお話だと感じました。本作は絵本のための抄訳という事ですから、原作も是非読んでみたいです。

ラスト。うさぎが望んだ形の奇跡ではなかったでしょう。でも、いずれにしてもいつか訪れるであろう坊やとの別れを考えれば、これが最良の形なのかも知れません。神のみぞ知るというところです。なんとも言えない複雑な後味のあるラストです。

多分、人によって受け取り方がだいぶ違うのじゃないかなと思います。私は、諦観のようなものをうさぎの眼差しに感じて、切ない気持ちになりました。子どもから大人へと成長していく過程で、何かを得、何かを失っていく、そんなお話にも受け取れます。

美しく品のある絵も素敵です。林明子さんの絵もそうですが、酒井駒子さんもほんのちょっとした仕草や何気ない格好が子どもの感情を伝えてくれるんですね。それがとても愛らしいです。

子どもって、ぬいぐるみを一つの人格として扱ったりしますよね。そういう経験のある子は、とても感情移入しやすいと思います。

また、奥行きのある作品なので、子どもが成長するにつれて面白さも違ってくるかも知れません。大人にもおすすめです。

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