
文 バージニア・リー・バートン
絵 同上
訳 石井桃子
発行 岩波書店
初版 1954/4/
対象年齢 4歳から
文字の量 やや多め
発行部数 122万部(2019時点)ミリオンぶっく
オススメ度 A
ちいさいおうち のあらすじ・内容
むかしむかし、静かな田舎に『ちいさいおうち』がたっていました。とても丈夫な家です。この家を建てた人は言います。「私達の孫の孫のそのまた孫の時まで、この家は立派に建っているだろう」
そこは自然が豊かで、『ちいさいおうち』は昼と夜の違いを、そして四季の移ろいをじっと座って見ていました。
ところがやがてその田舎が徐々に開発されてきて、ビルや鉄道、広い道路などが作られて、いつのまにか自然は消えてしまいます。大きなビルに囲まれて、お昼の一時にお日様が見えるだけで、夜は月も星も見えません。住む人さえいなくなって、『ちいさいおうち』は寂れていきました。そして昔の田舎を夢に見て、懐かしむようになりますが…
『ちいさいおうち』が体験する歴史を通して、自然に囲まれた生活への憧憬を謳ったお話です。
ちいさいおうち の解説・感想
『おうち』が主人公なんです
岩波のこどもの本シリーズの一冊。主人公はこの『ちいさいおうち』です。人間も登場しますがほんの小さく描かれるだけですし、個々の名前など出てきません。最初から最後まで『ちいさいおうち』の境遇の変遷とそれに伴う気持ちが描かれます。そして非常に長い時間軸を持っているのも特徴です。終盤には『ちいさいおうち』を建てた人の孫の孫のそのまた孫にあたる人が現れます。
自然への憧れを描く
淡々とお話は進んでいきます。それだからこそかえって『ちいさいおうち』の気持ちが静かに心にしみてくるようです。派手さはありませんが、自然への憧れに満ちた詩のような本です。
徐々に開発の波に圧迫されていく『おうち』
前半は『ちいさいおうち』が四季を通じて自然に親しむ様子が描かれます。後半は徐々に周りが開発されていく様子が描かれます。いきなり『ちいさいおうち』の周りが都会に変わるわけではありません。最初は家の近くに広い道路ができて車が通るようになります。次はアパートやお店ができます。そして電車が通り地下鉄が通り、大きなビルが建てられます。最後の一部を除いてほとんどの絵が、おうちの正面から同じ構図で定点カメラの映像のように描かれています。季節の移り変わりはもちろん、開発によって景色が変わっていく様がハッキリとわかります。徐々にしかし確実に周囲から圧迫されていく『ちいさいおうち』に、感情移入している読者の子どもは同情してしまうことでしょう。しかしラストは安心して本を閉じられる展開になりますので、その点はご安心ください。
自然◯、都会☓、とかなり偏った見方だが
街が発展するにつれて人々が忙しく駆け歩くようになっていくのや、空気が汚れていく事などが描かれ、文明のもたらす負の面への疑念が含まれています。一方で自然の多い環境を礼賛しています。自然の多い田舎の良い面と都会の悪い面をそれぞれ描いていて両者のその反面は描かれていません。都会に生まれ育った人はこれを読んで若干の反感を抱く可能性はあるかも。しかしこの作品が描かれた頃の都市開発というのは今と違って環境に対する配慮が足りなかったのではないかと考えると、このような描き方になるのもわかる気がします。
色使いが美しくかわいらしい絵
同じバージニア・リー・バートンさんの『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』では、モノクロの迫力ある絵でしたが、本作は全編カラーです。自然の美しさを、あたたかく、かわいらしく描いています。表紙を見てみてください。かわいいでしょう。因みに都会の様子は茶色とか灰色で描かれていて、この辺にはだいぶ作者の主観が反映されていますね。
小さい子どもには若干ハードルが高い
40ページ以上あって、文字もやや多め、ストーリーも静かに進みあまりドラマチックではありません。小さい子にはわからないであろう『そくりょう』『こーるた』『こうだんじゅうたく』『こうかせん』などの言葉もところどころ書いてあります。知らない言葉が出てくるのは悪い事ではありませんが、いくつもあんまり出てくると嫌になるかもしれませんね。だから、なかなかこの本の世界に入り込めない子どももいるかも知れません。その点は予めご注意ください。
4歳のうちの子は最初すぐに飽きてしまいました。数日後にもう一度読んでみました。今度は飽きさせないようにそのまま文を読まずにちょっと噛み砕いたり、絵で説明したり。今度は最後まで見てくれました。でもあんまり面白そうではなかったな(汗)。本には『年上の人と読むには、4~6歳』となっています。いい絵本だけどあんまり焦って早く読ませない方がかえっていいかも知れませんよ。
実は判型が2種類あります
実は本作品は、岩波書店から2種類が出版されています。上に掲げた表紙は20.7×16.4cmの小さい判型の絵本です。これはこれで小さい分この作品のかわいらしさがより強調されるようで魅力があると思います。もう一つは 24.2×23cmの大きめの絵本。

当然ながらこちらの方が絵の迫力があります。英語版の原書を見たことがないので確実な事は言えませんが、おそらくこちらの方が原書に近く、文章の配置や細かな絵など忠実に再現されているのかも知れないなと思いました。ただ値段は倍以上です。
なぜこの絵本は夫のために書かれたのか
意外なことに本書は著者の夫のために書かれたのだそうです。結婚して海辺の田舎へと移り住み、そこでは野菜や果物を作り羊も飼っていたそうで、まさにこの『ちいさいおうち』の前半に描かれるような生活だったようです。著者はそんな生活を愛し、幸せを感じ、その感謝の気持ちとしてこの絵本を描いたのでしょうか。
元々はアメリカで出版された本ですが、1942年にアメリカ最優秀絵本としてコールデコット賞を受けているそうです。
プチトリビアですが…羽海野チカさんの漫画作品『3月のライオン』の10巻のイラストにこの『ちいさいおうち』を読んでいるキャラクターが描かれていますよ。羽海野チカさんも子供の頃に本書に親しんだのかも知れません。
他にもバージニア・リー・バートンさんの作品をご紹介しています。 → 『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』『せいめいのれきし』『はたらきもののじょせつしゃけいてぃー』
他にもコールデコット賞を受賞した作品を紹介しています。 → コールデコット賞
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