文 フィービとセルビ・ウォージントン
絵 同上
訳 まさきるりこ
発行 福音館書店
初版 1987/5/
対象年齢 3歳から 自分で読むなら小学校初級向き
文字の量 やや少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 B

パンやのくまさん のあらすじ・内容


あるところにパン屋のくまさんがいました。パンやパイ、それから誕生日用のケーキやタルトも作ります。

毎朝早く起きて、まずかまどに火を入れます。熱くなるまでお茶を飲みます。

次にパン生地を作ります。

生地を寝かせておく間に朝食をとります。

パンが焼き上がると半分はお店に並べ、もう半分を車に積み込みます。そして車で移動販売に出かけました。いつもの場所について鐘をならすとお客さん達(お客さんは人間です)が集まってきます。

次はお誕生日パーティーに頼まれていたケーキを配達に行きます。

そして、お店に戻ってお店番。子どもが来たらキャンディーをサービスすることも。

パンが売り切れるとお店を閉めて晩ごはんです。

晩御飯がすむと今度は売上の確認です。

そして夜8時頃にベッドに入るのです。

パン屋さんをやっているくまさんの忙しい一日を追うお話です。朝早く起きてのパン作りから販売、経理まで全て一人でやってます。

パンやのくまさん の解説・感想


飾っておきたくなるような絵


この本は絵が好きです。細かいところまで描き込まれてるんですけどリアルというのとはちょっと違ってて、古めかしいレトロな感じなんです。色使いが美しく異国情緒(多分イギリスではないかと思います)もあって飾っておきたくなるようなオシャレな絵柄の絵本です。判型が小さいのもかえってかわいくて大事にしたくなります。

あと、隅々まで絵を見てみると、色んな発見がありますよ。くまさんは釣りが好きなのか…

くまさんは熊でなくテディベア


主人公のくまさんは動物の熊ではありません。テディベアなんです。手足や顔の造作もぬいぐるみそのものです。因みに英語版のタイトルも『Teddy Bear Baker』となっています。ぬいぐるみのくまがパン屋で働くなんてそれだけでキュートだと思いませんか。しかも、とても真面目で礼儀正しくサービスもよく、お店は人気があります。ぬいぐるみなので表情は全然変わらないのですけど、その寡黙にせっせと働く姿がまた健気でかわいいのです。

普通の生活ってなんかいい


くまさんは一人暮らしなんです。でもあんまり寂しそうな感じはなかったです。町の人々を愛し、愛されているから寂しくなんてないのかも。むしろ充実した日々を過ごしているように感じますね。ただただ、一人の人間(じゃなくてくまでした)として一日一日を真面目に誠実に生きていく地に足のついたくまさんの生活は、日々あたふたしている私なぞからはなにか羨ましさに近いものさえ感じさせます。『14ひきのあさごはん』という絵本もそうだったけど、とりたてて大きな出来事なんてなくても、ごく普通の人間の営みやちょっとした触れ合いって、何故かそれだけで豊かさを温かさを味わわせてくれるんです。使い古された言い方ですが「幸せなんて足元に転がってるぜ」とくまさんに喝破されてるようです(汗)

このくまさんの姿が読者のお子さん達にも何かしらいい影響を与えてくれたらいいなと思います。

ドキュメンタリー的な絵本ですが子どもは興味津々


なんだか大人目線の感想ばかりになってしまいましたが、こどもにとって普段お客さんの立場からしか見たことのないパンやさんの一日を知るのはこどもにとっても面白い経験だと思います。お仕事というものがどんなものなのか、少しは感じ取ってもらえると思います。

ウチのこどもは『かまど』なんて知らないですから「火がついてるよ~」って心配してたので、教えてあげました(笑)。そんな小さな事一つ一つが経験であり勉強なんですよね。なんの起伏もなく物語としての面白さはあんまりないドキュメンタリーのような絵本なのですが、その他にも子どもの目を引きそうなところがいくつもあります。例えばパン生地をこねるところ(どさっどさっ、という擬音語が楽しい)から、移動販売に来たことを知らせる鐘を鳴らすところ(がらんがらん、という擬音語が楽しい)とか、お金を数えるところとか、子どもにキャンデイーをおまけしてあげるところとか、暖炉の火でマフィンを炙るところとか、そんな事も子どもにとっては非日常なんでしょうね。どこのページを開いても子どもの普段の生活にはないような事が描かれていて興味をそそられるかと思います。

ちょっとした教育的効果も


仕事をして、その対価としてお金をもらうという社会の仕組みも教えてくれています。因みにお金を数えるところは、最初は2個3個で、最後の方では5個まで数えます。小さい子が数を覚えるのにも効果的かと思います。

くまさんはとても礼儀正しいのです。「おはようございます」「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」と忘れずに言います。だから近所の人はくまさんの店に来るのが好きなんです。あいさつの大切さもそれとなく教えてくれます。

おやすみ前に適しています


ちょうどくまさんの就寝でお話が終わるのでおやすみ前の読み聞かせにも適しているんじゃないかな。32ページですけど、左右2ページで1場面の構成で文章も多くないですし。

この絵本をきっかけに


パン屋のお仕事を知ったらパン屋さんごっこができそうだし、年齢にもよりますけど実際にお子さんとパンを作ってみるのもいいでしょう。この絵本をきっかけにお子さんの世界がさらに広がったらいいですね。

くまさんは色んな仕事をしている


本書はシリーズになっていて、他にもこんな作品がありますよ。『せきたんやのくまさん』『ゆうびんやのくまさん』『うえきやのくまさん』『ぼくじょうのくまさん』です。どの作品も変わることなくくまさんが真面目に仕事をします。『ぼくじょうのくまさん」だけは新品が入手しにくくなっているようです。