文 瀬田貞二
絵 林明子
発行 福音館書店
初版 1979/8/
対象年齢 5歳から 自分で読むなら小学校中級向き
文字の量 やや多め
発行部数 不明
オススメ度 A

きょうはなんのひ? のあらすじ・内容


小学生のまみこは、「お母さん、今日は何の日だか知ってるの?知ーらないの、知らないの、知らなきゃ階段3段目」と歌を歌って登校していきました。

お母さんが階段の3段目を見ると、赤い紐で結んだ手紙がありました。そこには「ケーキのはこをごらんなさい ①」と書かれています。

居間にあるケーキの箱を見ると、シュークリームの間にまた赤い紐で結んだ手紙がありました。今度は「つぎはげんかん かさたてのなか ②」と書いてありました。

玄関に戻って傘立てを見ると、底の方に赤い紐で結んだ手紙がありました。今度は「こんどはわたしのほんのなかよ ヒントはいちばんすきなえほんです ③」

それぞれの手紙には「xxxを見てみて」とか書いてあり、そこを探すとまた「xxxxを探して」とかいう手紙が。お母さんはまみこの残したいくつもの手紙を順にたどっていきますが、最後にかわいいサプライズが…

ある日の、微笑ましい家族の出来事を描いたお話です。

きょうはなんのひ? の解説・感想


これは傑作です。遊び心にあふれていて、ちょっとした謎解きの本でもあります。お子さんが初めて読むミステリの本になるとも言えるかも知れませんよ。

一度はハマる『宝探し』


こういう宝探しみたいなアイデアって、誰しも考えたことあるんじゃないかな。私も子供の頃に考えたりしました。考える方も楽しいし、手紙をたどっていく側も楽しいんです。しかもこのまみこの手紙は、ただたどっていくだけじゃなくて、粋な趣向がいくつか仕掛けられているのです。絵本の中を探す時は、まみこの一番好きな絵本を当てるクイズになっています。(ちなみにその絵本とは『マドレーヌといぬ』です。これがまたうまく伏線に使われています。)なぞなぞがあったり、お母さんにピアノを弾かせるという指令もあったりします。これはすごい!と思うのは、空間を飛び越えて仕事に行ってるお父さんのポケットまで探させるところ。

こんな仕掛けまで…まみこちゃんすごすぎる


しかもまみこのアイデアはこの宝探しだけではないんです。お母さんが手紙をたどって最後に見つけた小包にも物理的な仕掛けが施してあります。そしてさらにたどり終えた10枚(実はこの10という数字にも意味があります)の手紙にもまだ謎が仕掛けられているのです。この謎は最初のまみこの言葉「今日は何の日?」という問いかけに対する答えでもあります。これは私も気づかなかった。めちゃめちゃ凝っています。

人を喜ばせることの喜び


こういったアイデアは子どもをワクワクさせるのに十分だと思いますが、その根底にある”人を喜ばせてあげたいという気持ち”もまた子どもをワクワクさせるものではないでしょうかね。このアイデアを考えている時のまみこはきっとお父さんお母さんが喜んでくれることを想像して心からワクワクしてたと思うんですよね。このワクワク感を読者の子ども達にも育んであげる力がこの絵本にはあるように思います。

実はお母さんとお父さんもまみこに嬉しいサプライズを持っています。途中でそれが匂わされて、最後に明かされます。なんかもう幸せ感マックスで、ハイハイごちそうさま!っていう感じですよもう(笑)。天国と地獄にはどちらも大きな鍋と長い箸が置いてあって、地獄では箸が長すぎて各自が鍋のものを食べられないのに対して、天国では長い箸を使ってお互いに他の人に食べさせてみんな幸せなんだという話を聞いたことがありますが、この家族はまさに相手の喜ぶ顔を見るのが自分の楽しみみたいです。こんな家族を持つ子どもは健全に育つことでしょう。

できればひらがなは読めた方がいいけど


読み聞かせでも十分楽しめるのですが、こどもが字が読めないと、ラストの手紙の謎解きの部分だけは「あっすごい!」という驚きにはつながらないと思います。1つだけカタカナがありますがそれはまあ教えてあげるとしても、せめてひらがなだけは読めた方がベターですね。(そういうのもあって対象年齢が少し上の5歳からになってるのかな。)でも最悪読めなくてもかなり楽しめますけどね。それに読めなくてもこの絵本を読んだら同じように遊びたくなるでしょうから、字を覚えようという気持ちになるんじゃないかな。ちなみにこの絵本の文章はほとんどがひらがなで書かれています。その中にカタカナがポツポツ。漢字がほんの数か所でふり仮名がふってあります。

林明子さんの絵は神がかってる


林明子さんの絵はかわいいですね。まみこが登校していくときの笑顔とか、お父さんが小包を開けるのを見てる表情とか、「あ~これだよこれ、これが子どもの笑顔だよな!」と思います。この時のまみこの心の中がそのまんま表情に出ていますね。明るく仲の良い家族の雰囲気も伝わってきます。林明子さんの絵本は、表紙から既にお話が始まっていて裏表紙にまでずっと続いている事があるのですが、本作もそうでした。思わぬところに伏線があったりもしますよ。

実は今日はお父さんとお母さんの結婚記念日なのです。物語の最後は「おとうさんとおかあさんは、ほんとうに しらなかったのでしょうか」という問いかけで締めくくられます。その答えは文章には出てこないのですが、絵をよ~く見てみると、どうやらその答えがありそうですよ。絵本の絵を書く人は物語を聞いてそれに合う絵をかくだけではないんですね。瀬田貞二さんと林明子がよくよく協力して練り上げたんだなということが察せられます。

この本は大人でもはまる人ははまると思いますよ。

この本をヒントにしたこどもと宝探しで遊ぶ記事もあります。私はウチの子と何度これで遊んだか。子どもはすごく喜びますよ。是非やってみてください。

他の林明子さんの作品のご紹介は、すぐ下の『林明子』のタグからどうぞ。

同じような宝探しをモチーフにしたエリック・カールさんの『たんじょうびのふしぎなてがみ』という絵本もご紹介しています。こちらはもう少し小さい子向け。よかったらご覧ください。