文 川端誠
絵 同上
発行 クレヨンハウス
初版 1998/4/
対象年齢 5歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 24
発行部数 不明
オススメ度 B
じゅげむ のあらすじ・内容
ある家に男の子が生まれます。両親は名前を決めるにあたって和尚さんに相談にいくことにします。
物知りな和尚さん、最初に鶴は千年生きるというから鶴太郎はどうか、亀は万年と言うから亀太郎はどうかと言いますが、千年万年しか生きられないのは可哀想だと男は答えます。
それではと他にも和尚さん、名付けに役立ちそうなめでたい言葉や逸話を色々と教えてくれました。例えば『寿限無』。ことぶき、かぎり、なし、限りなくとてもとても長生きという意味です。
他に『五劫の擦り切れ』。三千年に一度天女が舞い降りて、羽衣で岩をこする。この岩が擦り切れてなくなるのが一劫。それが5回分で五劫。途方も無い長い時間です。
和尚さんはまだまだ教えてくれて、紙に書いてくれました。その中から選んだらいいということですが、しかしどれか1つに絞り切れないお父さんはそれらを全部つなげた名前にしようと思い立ちます。
そうして付けた名前が…
寿限無寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚、水行末、雲来末、風来末、食う寝る処に住む処、藪ら柑子の藪柑子、パイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの、長久命の長助
あまりに長い名前ゆえに、色々とおかしな不都合が起きます。
有名な落語を絵本にしたものです。
じゅげむ の解説・感想
こどもに大ウケでよかったです。
こんなお話
じゅげむのお話を知らない方のために、もう少しご説明しますと…。何しろとてもとても長い名前を付けたものですから、色々と問題が起きます。近所の方に名前を覚えていただくためにわざわざ練習会をやったりします。男の子が泣きだしたのでいないいないばあをやろうと「寿限無xxxxxx……ちゃーん」と声をかけて「いないいないばあ」とやる頃にはもう男の子は寝入ってしまってます。万事がそんな調子なわけで、そこがこの落語の一番の面白いポイントになるわけです。
元々この寿限無の落語ネタは、男の子が長い名前のせいで溺れ死んでしまうという皮肉な結末だったらしいですが、今では結末が変わっている事が多いようです。この絵本でも平和なラストになっていますのでご安心ください。
上記のあらすじには『寿限無』と『五劫の擦り切れ』についてだけ触れましたが、本書では名前のすべてについて由来が簡単に説明されています。『ポンポコピーのポンポコナー』とか一見ふざけたような部分にもれっきとした由来があるんです。知らなかった方にはへぇ~となりますね。
読むのが大変なのが子どもには可笑しい
絵本なので毎回そんな名前が全部書いてあっても…ということで、じゅげむの名前をフルに言うのはこの本の中では3回にとどまります。でもウチの子は私が懸命にじゅげむの名前を最初から最後まで言うのがおかしくてしょうがない様子でした。
そもそもそんな名前があったとしても、普段呼ぶ時には「じゅげむちゃん」とか短縮して言えばいいだけなのですが「そこは落語ですから…」と本文にも説明がありそこにもニヤリとさせられました(笑)。しかしここの面白さは子どもには分かりにくいでしょうね。
ウチの子どもはその内覚えちゃって得意げに暗唱してくれました。多分どこの子もそうなっちゃうでしょうね。それもまたこの絵本の楽しみ方でしょう。
親が子どもを思う気持ちも
そんな面白いお話の中にも、親がこどもを思う気持ちなどもそれとなく描かれています。こんな長い名前になったのは父親がおバカだったからですが、でも元々は親としての気持ちから。親がこどものことをどんなに大切に考えているのかをこどもの立場で見るのもまたひとつの経験ではないでしょうか。自分が愛されて生まれきたことを再確認することにもなるかも知れません。
親の立場でも考えさせられるものが
私が親の立場からこの絵本を読んで一番心に残ったのがこの部分でした。
それでも、頭をなでてそだてて、わるい人間になったものは、いないんで、笑い声のする家が、いちばんいいようです。
巻末に川端誠さんのコメントが書いてあるのですが、長い名前を繰り返すというのは口うるさい親に対する皮肉ともとれるというような事をおっしゃっています。長い名前を一通り言った上でそれでも子どもに言いたい事があれば言う、という位でちょうどいいのではないか、という事でした。なるほど。
落語の雰囲気そのままの文章
セリフや文章が終始江戸っ子口調になってるんですね。落語がベースの本ですから、落語家が語るような言葉遣いだったり講釈が含まれていたりします。落語家さんのようにとはいかないまでも間のとり方や抑揚などを考えて読むとこどもはより喜んでくれると思います。こどもに読み聞かせる前に一度自分だけで読んで概略をつかんでおいた方がいいかも知れませんね。
落語ベースということでもう一つ。小さい子どもにも話がわかるように一から十まですべて事細かく説明、とはしていないんですね。呼吸やリズムで笑わせる部分もありますし、オチはこうなんだよなんて説明しちゃったらもうその時点で興ざめなわけです。そこは作者が絵や構成でうまく補ってる部分もあります。でも小さい子にはオチが分かりにくいところもあるかと思います。それで対象年齢は『5歳から』としました。お子さんの相性にもよると思いますが、あんまり小さい頃に読んでもどうかなと思います。
この川端誠さんの落語絵本のシリーズは十数冊出ていますが、私のおすすめは本作ともう1つ『はつてんじん』です。いずれもテンポが良くこどもも理解しやすい平易な内容で、我が家でも人気でした。
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