文 千葉幹夫
絵 笠松紫浪
発行 講談社
初版 2001/4/20
対象年齢 4歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 45
発行部数 不明
オススメ度 B

一寸法師 のあらすじ・内容


昔、大阪に仲の良い夫婦がいました。しかし子どもがいません。近くの住吉明神に熱心にお願いしていたところ、ようやく子どもが授かりました。しかしその男の子は背丈が3cmほどしかありませんでした。

それでも夫婦はその子に『一寸法師』と名付け大切に育てました。一寸法師はよく手伝いをするいい子に育ちましたが大きくなることはありませんでした。

13歳になったある日、一寸法師は両親に手をついてお願いします。都へのぼって立派な侍になりたいというのです。一寸法師があまりに熱心なので両親は許し、縫い針の刀と船代わりの茶碗と箸をもたせて送り出しました。

一寸法師は海から淀川を上り、都へやってきました。そして三条の大臣という偉い人の屋敷を訪れ、家においてもらうことになります。三条の大臣の娘であるお姫さまにも気に入られます。そしてお姫さまの世話をしたり、本を読んで勉強したりという日々が続きます。

ある日、お姫さまのお供をして清水の観音様にお参りした帰り、鬼が現れます。他のお供が逃げ惑う中、勇敢に立ち向かった一寸法師でしたが鬼に一呑みにされてしまいます。しかし一寸法師は鬼の腹の中で刀を突き続けました。鬼はたまらず一寸法師を吐き出し、逃げてしまいます。そこに鬼が落としていった打ち出の小槌を見つけたお姫さまは…

おなじみの一寸法師のお話です。

一寸法師 の解説・感想


子どもに媚びない本格的な一寸法師


私の好きな『新・講談社の絵本』シリーズの一寸法師です。子ども向けだからとかわいく甘ったるく作ったような絵本ではなく本格的なものを選びたいという親御さんにはこのシリーズがオススメです。作家の田辺聖子さんがまえがきを書かれています。

このシリーズですから他の一寸法師の絵本に比べると硬派な印象です。ストーリーはよく知られているものと同じですが、本書では体が小さいことを気にもとめず、向上心があり、努力家であり、礼儀正しく、勇敢でもある、そんな一寸法師が数奇な運命の果てに立身出世して親孝行するという趣旨の表現になっています。こう言うと時代錯誤の右偏重の本かと勘違いされるかも知れませんが、決してそんな押し付けがましい表現ではなく、文にしても絵にしても全編に渡って品があります。私個人としてはそういう凛とした価値観に触れる事もこどもにとって大切だろうと思いました。

日本画家による美しい絵


この本も同シリーズの他の本と同様に本職の日本画家さんによるとても美しい絵です。姫様の着物など艶やかに描かれています。今の時代、日本画に子どもが触れる機会はあまりないでしょうし、そういう意味では貴重かも知れません。当時の文化・風俗なども絵の中に織り込まれており、本の最後には解説がありました。

硬めの文章ですが簡潔でわかりやすい


文章はやや硬い印象ですが、簡潔でわかりやすく、品が感じられます。わずかにこどもにはわからない言葉も出てきますけどお父さんお母さんが教えてあげれば問題ありません。漢字にはすべてふり仮名がふってありますので、ひらがながわかれば自分で読むこともできます。

蛇足かと思いますが、その後の話の続きです。お姫さまが打ち出の小槌を使って一寸法師は大きくなり立派な侍の姿になります。鬼を退治したという話を聞いた天子さまが一寸法師に高い位を与え、さらにお姫さまと結婚、両親を呼んでお屋敷で幸せに暮らします。