
文 キャロル・オーティス・ハースト
絵 ジェイムズ・スティーブンソン
訳 千葉茂樹
発行 光村教育図書
初版 2002/7/1
対象年齢 10歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 B
あたまにつまった石ころが のあらすじ・内容
私の父はこどもの頃から石を集めるのが好きでした。
父は大人になるとガソリンスタンドを始めます。それでも石の収集はずっと続いていきました。事務所には石を飾っておくタナもありました。
やがてT型フォードが登場し、自動車は庶民にも買えるものになりました。父はT型フォードを自ら1台買い、分解しては組み立てて構造を熟知し、部品もあちこちから集めました。やがてその部品の山が飛ぶように売れ始め、ガソリンスタンドも盛況となります。
ところがやがて大恐慌が起きます。ガソリンスタンドは潰れ、家族は古い家に引っ越します。父は相変わらず石を集めながらも、仕事を探します。
日雇いの仕事もなくお天気が悪い日には、よく父は科学博物館に行きました。そこには多くの石の展示もあったのです。やがてそこの館長さんと仲良くなり、家にある石のコレクションを見せたりもしました。そこから父は科学博物館の夜の管理人の職を得ます。そしてさらに石に関する知識が認められ、鉱物学部長に就任するのでした。
時代に翻弄されながらも、ひたすら地道に石集めと研究を続けていったアメリカの一男性の半生を綴ります。
あたまにつまった石ころが の解説・感想
好きなことがあるという幸せ
ラストはハッピーエンドなのですが、多分この人にとっては生涯がハッピーだったのであって、ラストはほんのおまけみたいなものだったのかも知れません。大恐慌の時代を生きたということで相当なご苦労をされたであろうと思いますが、この人は苦難にもめげずに根性で石に打ち込んだのではないでしょう。こんなにも好きで自然体で打ち込めるものがあるというのは羨ましいです。このお話は、上記のあらすじで『私の父は…』とある通り、著者のお父さんの話であり実話なのです。著者は最後にこう語っています。
父ほど幸福な人生を送った人を、わたしはほかに知りません。
自分の子どもにこんな風に言ってもらえる父親ってすごいですね。
このお父さん、周りの人からよく「ポケットと頭の中は石ころでいっぱいだ」と揶揄されるのですが、どうも本当にそうみたいです。いい職がなくて困っている時に幸運にも科学博物館に採用が決まります。そんな時でも館長さんに対して採用の話はそこそこに「ところでいい石をみつけたんですよ」ですから。お母さん(主人公の奥さん)が石に関して軽く嫌味を言ってもやはりこのセリフ。筋金入りです。この人の会話は誰に対しても万事こんな調子でとてもユーモラスです。この辺の描写には作者の愛情が背景にある事を感じます。お父さんは愛すべきキャラクターだったのでしょうね。
学び続ける姿勢
石が好きだというだけではありません。この人は学んだり、新しい事を知ったりする事がとても好きなようです。自動車を分解して組み立て直すというのもそれが表れているようです。その事が図らずもこの人の人生の経済的な意味での助けにも時々なっています。お話が終わった後、1ページだけ作者のあとがきが載っています。それによると、鉱物学部長になった後、お父さんは知識を深めるために大学に通ったのだそうです。そして館長さんが退職後次の館長に就任したのだそうですよ。
あたまに石のつまったすべての人へ
お話は大いなる感動を誘ったり、深刻な雰囲気になったり、全然しません(笑)。お父さんはどんな苦境に陥っても本当にマイペース。終始お父さんのキャラクターのように飾り気もなく、淡々とちょっぴりユーモラスに出来事が重ねられていきます。登場人物の中には嫌な感じの人もまったくいません。物語としてはとても軽いものです。ただその中に人生の秘密のいくつかがそれとなく隠されています。その秘密を必要とする人には嬉しい贈り物となる、そんな絵本かも知れません。本書の献辞にはこんな風に書かれていることですしね。
キースとジェシ、そしてあたまに石のつまったすべての人へ -C.O.H.
高学年位から。そして大人にも
内容的にあんまり小さい子に読み聞かせても楽しめないケースが多くなるだろうと思いますし、小学校高学年位からの方がいいかと思います。漢字はいっぱいありますがすべてふり仮名がふってあるので、自分でも読めますよ。
親御さんにとっても読む価値のある絵本ではないでしょうか。子どもが夢中になることを自分の価値観で安易に否定しない方がいいという教訓になるかと思います。それにちょっと違った観点から自分の人生を見つめ直すきっかけになる可能性もあるかと思います。
絵はペン書きに水彩で色をつけたように見えます。ラフなタッチですが、ユーモラスな味と透明感があってちょっと飾っておきたくなるような絵です。表紙にポツポツと描かれているのはいろんな種類の石です。本文中にも石のサンプルの絵が時折出てきます。もし石に興味のあるお子さんがおられるならこれは嬉しいかも。
本作のように、何かに一つのことに夢中になる人を描いた絵本が他にもあります。『雪の写真家ベントレー』『時計つくりのジョニー』もご覧ください。また、『個性を大切にする』という観点でも他に色々絵本をご紹介していますよ。こちらもご覧ください。 → タグ『個性』
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