
訳 君島久子
絵 赤羽末吉
発行 岩波書店
初版 1969/11/25
対象年齢 6歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 42
発行部数 不明
オススメ度 B
王さまと九人のきょうだい のあらすじ・内容
もとは中国の民話です。
はるか昔、中国のイ族のある村に年寄りの夫婦が住んでいました。夫婦はこどもを欲しがっていましたが授かりませんでした。
そんなある日、おばあさんは不思議な老人からこどもが授かるという丸薬を9つもらいます。試しに一粒飲んでみますが何の変化も感じられません。どうしてもこどもが欲しいおばあさんは丸薬を一辺に全部飲んでしまいます。そして…こどもが授かりました。9人の男の子です。
貧しい夫婦は急に9人の兄弟を授かりますが貧しい二人にはとても育てていくことができそうにありません。するとそこへかの老人が再び現れて、この兄弟はなにもせずとも自分で育っていくということを伝え、また兄弟たちに名前を授けます。『ちからもち』『くいしんぼう』『はらいっぱい』『ぶってくれ』『ながすね』『さむがりや』『あつがりや』『切ってくれ』『みずくぐり』という奇妙な名前でした。その後兄弟はいっぺんに大きく成長しました。顔つきはみんなそっくりです。
ある日、王様の宮殿の柱が倒れてしまいました。とても大きく重いので誰も動かすことができません。王様は国中にお触れを出し、柱を元通りにできたものには望みの褒美を与えるとしました。
その話は9人の兄弟にも伝わってきました。そして一番力持ちの『ちからもち』が出かけることになりました。彼は夜に宮殿について柱をひょいと持ち上げて直してしまい、すぐに帰ってきます。翌日になって柱が直っていることに気づいた王様が誰が直したのかを調べさせた結果、9人の兄弟の一人が直したらしいことがわかりました。しかし王様はそれを信じず、そのような力持ちならば大飯食らいのはずであり大きなお釜にいくつもご飯を炊かせてそれを食べられなければ大嘘つきという事だから牢屋に入れてしまえ、と命令します。
兄弟はさっそく相談して、今度は『くいしんぼう』に行ってもらうことにします。
王さまと九人のきょうだい の解説・感想
兄弟は特殊能力の持ち主
これはとても面白いお話でした。概要に書いたのはほんの序盤。王様は兄弟のことをうまく使えばいいのに、自分を脅かす存在のように考えてしまって、兄弟に意地悪を仕掛けます。この先もお話はまだまだ続いて、どんどん面白くなります。兄弟は順番に一人づつ出動していってそれぞれが大活躍しますよ。
兄弟につけられた名前は、みんなふざけたような名前です。ここからしてまず面白いのですが、さらに実はこの兄弟、それぞれ名前に因んだ特殊能力を持っているのです。X-MENとか、日本で言うとサイボーグ009(古い。笑)みたいな感じですかね。それじゃ『切ってくれ』とか『ながすね』ってなんだよ~って思いますよね。そこは本書をお手にとって確認してみてください。期待を裏切らず楽しませてくれると思います。
彼らがその能力を使って悪い王さまをやっつけるのですが、表紙の兄弟を見てください。不敵な笑みを浮かべとても強そうでカッコいいですね。実際のところ、上記の『ちからもち』のエピソードを見てわかるように、王様の意地悪など軽くあしらうほどにこの兄弟たちは強いです。不思議でダイナミックで痛快な物語は特に男の子にはウケるかも知れません。(もちろん女の子にもウケると思うけど。)普段あまり本を読まないお子さんにも受け入れられやすいと思いますよ。
ちょっとページ数ありますけどね。テンポよくお話が進みますし、次から次へ面白い能力の持ち主が出てくるもので、引き込まれてしまって全然飽きる暇がありません。読み聞かせる親御さんも、乗りに乗って講談師のつもりになって読んでみてください。
イ族とは…このお話の悲しい背景
ただこのお話、巻末の解説を読むとちょっと違う面が見えてきました。イ族というのは征服した民族と征服された奴隷階級の民族とからなっており、特に奴隷階級の女性などはとても残酷な扱いを受けていたようです。その奴隷階級の民族に伝えられてきたのがこのお話なのだそうです。本作の最後には「この日から、イ族の人びとは、王さまから、ひどいしうちをうけることもなく、楽しく、へいわに、暮らしたということです」と書かれていました。お話の中にはひどい仕打ちというような印象は一切なく、意地の悪い王さまだと思う程度で、史実のような悲惨さはあまり感じられませんでした。しかしこのお話には虐げられた人々の夢や希望(そんな単純なものではないと思いますが)というようなものが隠されているのかも知れません。
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