文 フランシス・P・チャーチ
絵 東逸子
訳 中村妙子
発行 偕成社
初版 1977/12/
対象年齢 8歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 31
発行部数 不明
オススメ度 B

サンタクロースっているんでしょうか? のあらすじ・内容


アメリカで8歳の女の子からある新聞社に手紙が届きます。

友達に「サンタクロースなんていない」と言う子がいて、パパに真偽を尋ねたら新聞社に問い合わせてご覧、と言われたというのです。

この新聞社は手紙への回答を社説に載せました。1897年に実際に掲載された社説を本にしたものです。著者の名前はこの社説を書いた記者の名です。

物語絵本ではありません。内容は社説の全文のみです。

サンタクロースっているんでしょうか? の解説・感想


いわゆる”絵本”ではないのでご注意を


クリスマスをイメージした挿絵が時々出てきますが文章の内容とは直接の関連性がありません。内容は社説の記事そのままだけですから物語ではありません。絵本とはいい難いので誤解しないでください。

答えはYesだが…


単純にYesかNoで言うとサンタクロースはいると答えています。ですがもちろんサンタクロースを信じない子どもを改心させるというようなものではありませんし、サンタクロースを盲目的に信じさせるような内容でもありませんから誤解しないでください。この社説の主旨、そして重要なところはむしろサンタクロースがいると信じることの意味にあります。この記者が相手が子どもと侮らずに将来ある一人の人間に対する回答として真剣に考えたものだと思いました。読んでいただければわかりますが本当に真心のこもった文章だと思います。私はこの回答に全面的に賛成です。自分のこどもにサンタクロースなんていないよって言うのが果たして正解なのか?って悩んでいる方も多いかと思います。私自身は「サンタクロースはいない」と言い切る事のあまりの味気なさと偏狭さが嫌でした。理屈だけで世界が回ってるんじゃないんだよ!と思いつつも明確に言葉にできなかったモヤモヤをこの記者が代弁してくれたようにも感じます。

サン・テグジュペリの『星の王子さま』という作品にこういう言葉があります。
ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない

社説もこの言葉と似た考え方だと思っていただければ、なんとなくお分かりいただけるでしょうか。

周りの大人達もグッジョブ


この社説を書いた記者だけでなく、これを社説として新聞に載せようと判断した人もグッジョブだと思います。新聞社に問い合わせてみたらいいと自身の子どもにアドバイスしたお父さんもいいですね。回答を他人任せにしていると言えばそうかも知れませんが、このお父さんは新聞社を信頼していたのでしょうし(今この日本にこんなにも信頼される新聞があるでしょうか)、どのような回答が返ってきてもそれは納得できるものであろうと考えていたのでしょう。それに新聞社に聞いてみるという選択肢を提示できる発想力も面白いです。回答である社説を目にしたこの女の子が受けたよい影響はとても大きかったのではないでしょうか。この女の子の周りにいい大人が揃っていたのも幸運だったと思われるのです。

文章は難しいです


8歳のこどもがこの本の言わんとしているところをどこまで理解できるかというと、多分個人差がかなりあるでしょう。子どもに向けた文章とは言いながら実は結構難しいです。全部を理解するのは困難かも知れません。でも『サンタクロースっているの?問題』が発生するのが大体8歳位からだろうと思いましたし、そもそも手紙を書いた女の子が8歳だったので、対象年齢を8歳からにしました。お父さんお母さんがこの本を読んで、内容を噛み砕いて伝えてあげる方法もありじゃないでしょうか。

信じない人にも


この女の子に「サンタクロースなんていない」と言った友達。信じる信じないは個人の自由だからそれはいいんだけど、そういう子どもにも本書の主旨は知ってほしい気がします。それは無理やりサンタクロースを信じ込ませたいからではなくて、サンタクロースを信じる事を馬鹿な事だと断じてほしくないから。それに『大人』というのは『サンタクロースを信じない人』ではないという事を知ってほしいとも思います。そしてサンタクロースを信じない、というよりもサンタクロースがいようがいまいがどちらでもいい、自分には関係ない大人の人にも読んで欲しいと思います。ですが…そういう人達にはこの絵本はかえって拒否反応を起こしやすいかも知れないですね。それなら前述の『星の王子さま』の方が手に取りやすいかな。



この社説はとても有名


この新聞記事は相当に昔のものですが、非常に有名で、あとがきによると今でもクリスマスが近くなるとアメリカの新聞や雑誌に掲載されるのだそうですよ。そしてこの日本でも本書によって子ども達が読むことができます。世代と地域を越えた多くの子どもに影響を与える素晴らしい仕事だったのだと思います。因みにこの女の子は大きくなって教師になったのだそうですよ。何故教師になったのか、どんな教師になったのか、想像させられますね。