文 宮川ひろ
発行 偕成社
対象年齢 小学校中級
ページ数 180
3年1組では給食の食べ残しが多いということでクラスで話し合った結果、嫌いなものもちゃんと食べようということになりました。
ところがその後、生徒の一人吾郎は担任の古谷先生が給食の時にこっそりと人参を食べずにポケットに入れているのに気付いてしまいます。吾郎は古谷先生を責めたり、他の生徒に知らせたりせずに、ふと思いついて先生の通信簿を作ってみることにします。給食の欄は『もう少し』の評価です。
またある日、古谷先生がお見合いすることになりました。先生はお見合い写真の代わりに自分の似顔絵を書いて欲しいと生徒たちに頼みますが…。
この作品大人が読んでも、この教室の仲が良くて伸び伸びとした暖かな雰囲気や出てくる子どもたちが精一杯毎日を過ごしている姿が可愛くて楽しめると思いますよ。
タイトルは『先生のつうしんぼ』ですが、一貫してそのつうしんぼを巡るお話で終始するわけではありません。あくまでもいくつかのエピソードの一つです。でもこのエピソードは子どもの心をくすぐりそうですね。他人に自分のことを評価されるって、いい評価ばかりなら嬉しいでしょうが、なんだか居心地の悪さを感じてしまう面もあるでしょう。それを逆に生徒が先生の評価をするとなると痛快じゃないですか。大人と子どもの立場が逆転するお話というのは子どもは大好きですね。
しかしこの吾郎君は優しい子ですね。先生の通信簿では給食の項目を『もう少し』と評価はしますが、現実では先生が人参を食べていないことをみんなには知らせずにかばうんですね。読者の子どもには吾郎君のこんな思いやりに気付いて欲しいです。そして人参の事はやがて他の生徒にもバレてしまうのですが、またそこでも子ども達の優しさを見ることになるのです。SNSでの過剰な批判や炎上など現代はギスギスした世の中になっている感がありますが、本書の中では人間としてあるべき姿をしっかりと描いてくれていると思います。いい本というものはそれとなく人生を教えてくれます。本書もそういう中の一つに数えられると思います。
古谷先生、お見合いは失敗してしまいます。生徒たちは自分のことのようにガッカリするんです。そして吾郎はそのことをお母さんと話し合います。人の縁というものについて触れる機会になります。古谷先生は普段から何となく頼りなげな雰囲気もあるのですが、とても正直でありまた優しい人です。そもそも自分のお見合いの話なんて生徒にしますか?、そして失敗したことまで明かしますか?。そういう先生だからこそ子どもたちは親しみが持て、また伸び伸びと学校生活を過ごせているのかも知れません。
さらに大きなエピソードが二つ。一つはひょんなことからもらってきた蚕を1組と隣の2組で育てることになります。この経験を通して子どもたちは命の不思議さや、蚕と人との関わり、そして昔の産業とその労働環境にまで思いをはせ、且つまた機織りの体験までをすることになります。興味のおもむくままに、そして蚕を一つのきっかけとして多角的に世界を広げていきます。ホントにいい勉強ですね。
もう一つの大きなエピソードは、学校の行事である子ども祭りです。各クラスがお店を出して、紙で作ったお金を使ってお互いに買い物ができるのです。これは楽しそうですよね。ウチの子どもの小学校でもやってもらいたいくらい。1組の子どもたちも何を売ったらみんなが買いに来てくれるかアイデアを出し合って決めます。どの組が一番稼げるか競ったりもしてて、実際これはマーケティングの勉強にもなるし、面白い取り組みだと思います。
子どもたちはこうした日々の出来事の中で様々な体験をし、自分以外の子どもからあるいは先生をはじめとした大人たちから様々な影響を受けながら成長していきます。読者の子どもたちも、作品に登場する子どもたちと一緒に色んなことを追体験できると思います。
大人である私が読んで特に考えたことの一つは、子どもに対して周囲の大人が与える影響について。この物語に出てくる大人達は、子どもの色んな経験が子どもを少しづつ成長させていくことをよくわかっていて、それがよりよいものになるようにと子どもに応じたり話をしたりします。手を出しすぎずに子どもを尊重しつつ。こうした成熟した大人の姿を見ると、私は恥ずかしいばかりでした。
出版の翌年1977年に映画化もされたようです。古谷先生は渡辺篤史さんが演じています。見てみたいけど、映画としてはあまり有名な作品ではないようですし難しいかな。一場面であればyoutubeで見られますよ。
本書はシチュエーションが読者の子どもにとってとても身近ですし、色んな事を教えてくれるものの決して説教臭くもなく、新たなエピソードも次々現れて読者を飽きさせません。なかなか読書に馴染んでくれないお子さんにも親しんでもらいやすい作品ではないかと思います。
発行 偕成社
対象年齢 小学校中級
ページ数 180
先生のつうしんぼ のあらすじ・内容
3年1組では給食の食べ残しが多いということでクラスで話し合った結果、嫌いなものもちゃんと食べようということになりました。
ところがその後、生徒の一人吾郎は担任の古谷先生が給食の時にこっそりと人参を食べずにポケットに入れているのに気付いてしまいます。吾郎は古谷先生を責めたり、他の生徒に知らせたりせずに、ふと思いついて先生の通信簿を作ってみることにします。給食の欄は『もう少し』の評価です。
またある日、古谷先生がお見合いすることになりました。先生はお見合い写真の代わりに自分の似顔絵を書いて欲しいと生徒たちに頼みますが…。
先生のつうしんぼ の解説・感想
この作品大人が読んでも、この教室の仲が良くて伸び伸びとした暖かな雰囲気や出てくる子どもたちが精一杯毎日を過ごしている姿が可愛くて楽しめると思いますよ。
タイトルは『先生のつうしんぼ』ですが、一貫してそのつうしんぼを巡るお話で終始するわけではありません。あくまでもいくつかのエピソードの一つです。でもこのエピソードは子どもの心をくすぐりそうですね。他人に自分のことを評価されるって、いい評価ばかりなら嬉しいでしょうが、なんだか居心地の悪さを感じてしまう面もあるでしょう。それを逆に生徒が先生の評価をするとなると痛快じゃないですか。大人と子どもの立場が逆転するお話というのは子どもは大好きですね。
しかしこの吾郎君は優しい子ですね。先生の通信簿では給食の項目を『もう少し』と評価はしますが、現実では先生が人参を食べていないことをみんなには知らせずにかばうんですね。読者の子どもには吾郎君のこんな思いやりに気付いて欲しいです。そして人参の事はやがて他の生徒にもバレてしまうのですが、またそこでも子ども達の優しさを見ることになるのです。SNSでの過剰な批判や炎上など現代はギスギスした世の中になっている感がありますが、本書の中では人間としてあるべき姿をしっかりと描いてくれていると思います。いい本というものはそれとなく人生を教えてくれます。本書もそういう中の一つに数えられると思います。
古谷先生、お見合いは失敗してしまいます。生徒たちは自分のことのようにガッカリするんです。そして吾郎はそのことをお母さんと話し合います。人の縁というものについて触れる機会になります。古谷先生は普段から何となく頼りなげな雰囲気もあるのですが、とても正直でありまた優しい人です。そもそも自分のお見合いの話なんて生徒にしますか?、そして失敗したことまで明かしますか?。そういう先生だからこそ子どもたちは親しみが持て、また伸び伸びと学校生活を過ごせているのかも知れません。
さらに大きなエピソードが二つ。一つはひょんなことからもらってきた蚕を1組と隣の2組で育てることになります。この経験を通して子どもたちは命の不思議さや、蚕と人との関わり、そして昔の産業とその労働環境にまで思いをはせ、且つまた機織りの体験までをすることになります。興味のおもむくままに、そして蚕を一つのきっかけとして多角的に世界を広げていきます。ホントにいい勉強ですね。
もう一つの大きなエピソードは、学校の行事である子ども祭りです。各クラスがお店を出して、紙で作ったお金を使ってお互いに買い物ができるのです。これは楽しそうですよね。ウチの子どもの小学校でもやってもらいたいくらい。1組の子どもたちも何を売ったらみんなが買いに来てくれるかアイデアを出し合って決めます。どの組が一番稼げるか競ったりもしてて、実際これはマーケティングの勉強にもなるし、面白い取り組みだと思います。
子どもたちはこうした日々の出来事の中で様々な体験をし、自分以外の子どもからあるいは先生をはじめとした大人たちから様々な影響を受けながら成長していきます。読者の子どもたちも、作品に登場する子どもたちと一緒に色んなことを追体験できると思います。
大人である私が読んで特に考えたことの一つは、子どもに対して周囲の大人が与える影響について。この物語に出てくる大人達は、子どもの色んな経験が子どもを少しづつ成長させていくことをよくわかっていて、それがよりよいものになるようにと子どもに応じたり話をしたりします。手を出しすぎずに子どもを尊重しつつ。こうした成熟した大人の姿を見ると、私は恥ずかしいばかりでした。
出版の翌年1977年に映画化もされたようです。古谷先生は渡辺篤史さんが演じています。見てみたいけど、映画としてはあまり有名な作品ではないようですし難しいかな。一場面であればyoutubeで見られますよ。
本書はシチュエーションが読者の子どもにとってとても身近ですし、色んな事を教えてくれるものの決して説教臭くもなく、新たなエピソードも次々現れて読者を飽きさせません。なかなか読書に馴染んでくれないお子さんにも親しんでもらいやすい作品ではないかと思います。
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