著者 大河原美以
発行 河出書房新社
初版 2006/1/17
対象 乳幼児

ちゃんと泣ける子に育てよう の解説・感想


全お父さん、お母さん必見の本です。乳幼児から関係ある話なので早めに読んだ方がいいです。この本は私にとってかなり衝撃でした。私の間違いをズバズバ指摘された感じがします。でも言われてみると確かにそうだなとすっと腹に落ちました。

『暴走老人』という言葉が出てきたように、最近いい大人が切れやすくなってる感じがします。子どもには自分の感情を常識的なレベルで制御できないような大人にはなって欲しくないって思いますよね。言い方を変えると我慢強い子になって欲しいと。さらに言い方を変えると周りに迷惑をかけないいい子になって欲しいと。でもそういういい子に育てよう育てようとすると、ネガティブな感情を表出できない、あるいは自分の中のネガティブな感情を理解できない子になってしまうと言うのです。そういう子は暴力的になったり意地悪な事をしたり気力がなくなったり精神的な問題を抱える可能性があると言うのです。

少しわかりやすい例が出ていました。子どもがおしっこをしたいと言った時、無理に我慢させようとしたら病気になりますよね。子どもが泣いてる時に、「泣くんじゃない」と言ったら、それも同じことだと著者は言います。泣くのも生理現象であり我慢させれば病気になりますよと。泣いている時の子どもはどういう精神状態で、何故「泣くんじゃない」というのがマズイのか、この辺りの説明は非常に説得力があって私もなるほどなぁと思いました。これがわかると子育てが楽しいものになるはず、と書いてありましたが確かにそうかも知れません。親もだいぶ気持ちが楽になると思います。

悲しいとか悔しいとか寂しいとか憎いとか不安とかそういうネガティブな感情を封じ込めるのではなく、まずは受け止めてあげてその感情がどういうものなのか教えてあげる必要があるのだそうです。そうすることでそういう感情をコントロールできるようになるのだそうです。でも受け止めて教えてあげるってどういう事なのか、どうすればいいのか、わかりませんよね。そこのところもこの本はちゃんと教えてくれます。

あと私が個人的に面白いと思ったのは、赤ちゃんって親にどんなに迷惑がかかろうが、お腹が空いたり何か嫌なことがあれば泣いて主張しますよね。これこそが生きる力なのだそうです。幼児が思い通りにいかなくて周りに構わず泣きわめくのも生きる力に満ち溢れているのだそうです。しかも、その生きる力を子どもが表出した時こそ実は親にある意味チャンスが与えられているのです。…と勢いに任せて書きましたが多分この文を読んでいる方は何を言ってるのかさっぱりわかりませんよね(汗)。何と言いますか人によってはこの本は価値観の大逆転があるので、結局のところ理解していただくには本書を読んでいただくしかないでしょう。そして価値観の大逆転がある人ほどその人にとっての本書の有益度は高いと思います。

最後の最後あとがきまで読み終わった私は、よく考えられた名作の小説を読み終わったような気分を少々味わいました。著者の人間や世界に対する深い洞察がベースになっていて単なる子育てテクニック本になっていない、良書です。第5章で、著者はこの本が良い子を育てるための本になる事を恐れているという記述がありました。読み終えると真意がよくわかります。