文 たしろちさと
絵 同上
発行 ほるぷ出版
初版 2017/12/
対象年齢 5歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 B

せかいいちまじめなレストラン のあらすじ・内容


まじめなシェフ、イタメーニョさんが営む街の小さなレストラン。ガチョウのスミス夫人が給仕をしています。

最初のお客さんはネコのニャニャロッティさん。徹夜明けの疲れ切った表情です。フレッシュりんごジュースとそばこのガレットを注文しました。イタメーニョさんはまず裏庭にりんごを収穫に行きます。そしてその採れたてりんごを使ってジュースを作ります。ニャニャロッティさんはこんな美味しいジュースは初めてだと3杯お代わりし、ガレットもキレイに平らげ、元気になって帰っていきました。

その後もワニ、カワウソなどのお客さんが、イタメーニョさんの料理を楽しみにやってきて、そして大満足して帰っていきました。

暗くなる頃、店の外に男の子が座っているのをスミス夫人が見つけました。どうやらお母さんに怒られて家を飛び出してきたみたい。お腹が空いてるかもしれないと思ったイタメーニョさんは…

イタメーニョさんが朝起きてからベッドに入るまでの一日の様子を描いた、楽しく美味しいお話です。

せかいいちまじめなレストラン の解説・感想


お客さんに対してとても誠実な”真面目な”お店


タイトルの『まじめな』というのは、イタメーニョさんの規則正しい生活の意味もあります。でももっと大事なのはお客さんに対して、そして料理に対して『誠実な』という意味だと思います。下のような著者のコメントが巻末にあります。
だれかのために、一生懸命料理をする気持ちを描きたいと思いました。イタメーニョさんのお店が、これからも繁盛しますように。


こだわりの食材


お客さんのために新鮮で美味しい食材を使いたいイタメーニョさんは、注文を受けてから食材を調達することも。例えばジュースの注文があれば庭のりんごを収穫しに行ったり、スイーツの注文があれば養蜂場に蜂蜜をとりに行ったり。こだわってますね、真面目ですね。でもこれはほんの序の口なんです。笑っちゃうようなあまりにアクティブな食材調達もありました。時間はかかるでしょうけど、でもこんなにも美味しそうな料理が出てくるのなら喜んで待ちます、待ちますよ!

食べたい!行きたい!ってなるだろ当然


お話の最初から最後まで美味しそうな料理!料理!の連続です。調理の過程なんかも少々描かれていて、読んでると美味しそうで大人の私も食べたくなってきますね。(私はワニが注文した『うっとりハニースペシャル』がどうにも食べたい!。)ガレットとかポワレとか子どもがあんまり馴染みがないような料理も出てきます。これらも美味しそうに描かれるので、お子さんが「これ食べたい」と作品中の料理を指さして言い出す可能性もありますが、そうなったら頑張って作ってください(笑)。作中の絵にメニューリストが描かれているのですが、そこに書かれた料理の全品が絵本の見開き部分に描かれている(カラーでないのが残念)徹底ぶりもまた楽しいです。メニューの中にある『ヤンソンさんの誘惑』ってどんな料理や!?って思って調べたら、スゥエーデンの伝統的な家庭料理なんですね。へぇ~と思って『穴の中のヒキガエル』も調べてみたら、こちらはイギリスの家庭料理。因みにカエルは使いません。他にも変わった名前の料理があるので調べてみたら、全部ちゃんと実在する世界の家庭料理でした。いずれも家庭料理らしい家庭料理で暖かい雰囲気のイタメーニョさんのお店にぴったりな感じがしました。私もお店を訪ねてみたいものです。

動物たちのキャラクターも凝ってる


動物たちが色々と出てきますが、ただ動物というだけじゃなくて、それぞれキャラクターが作り込まれているのも面白いです。ネコのニャニャロッティさんはどうもオペラの作曲家か演出家のようです。徹夜明けの疲れ切った気難しい顔をしていますが、ジュースを飲んでシャキーンとしています。ワニのワーニャさんは大柄ですが赤い可愛らしい服を着たお嬢さんで、注文もささやくような声なんです。でも料理のあまりの美味しさにうっとりのけぞってますが(笑)。

他の良質の絵本のいいところをミックスした感じ


色んな動物がお客さんとして来る点や、お客さん皆さんに喜んでもらっている点、主人公がお客さんに対してとても誠実な点において、『バルバルさん』や『アントンせんせい』などの作品にも似ていますね。全編を通して暖かく和やかな雰囲気をまとっているのも似ています。これらの作品が好きな方は、本作も気に入っていただけると思います。男の子のエピソードもハッピーエンドですし、子どもが安心して楽しめる作品ですよ。

また、主人公が朝起きてから寝るまでを追っているところや、主人公が寡黙で毎日を真面目に誠実に過ごしているところが『パンやのくまさん』にも似ている感じがしました。いつも表紙のような一見無表情のような感じでいるところも似ていてちょっとかわいいですね。

調理の場面など時折、1ページに漫画のコマ割りのようにいくつかの連続した絵が描かれているところは『さむがりやのサンタ』を連想させますね。イタメーニョさんの行動にカメラが密着しているような印象を与える効果があって、思わず見入ってしまいます。

こんな風に自分の才能を仕事で活かせて、しかも皆に愛されて、実に充実した幸せな生活だなと私など羨ましくも思いました。こんな大人の姿もまた子どもに一つのいい見本として映るかも知れません。

本作は細かいところまでよくよく考えて丁寧に作られた絵本で、著者自身が”真面目な”作家さんなんだなというのが伝わってきますよ。