著者 鍋田恭孝
発行 講談社
初版 2017/6/1
対象 4~10歳位
10歳までの子を持つ親が知っておきたいこと の解説・感想
著者は思春期外来を担当する医師です。思春期外来という言葉を私は本書で初めて耳にしました。調べてみたところ、摂食障害、自傷行為、登校拒否、引きこもりなど思春期に起こる主に精神的な原因による問題や発達障害に関して対応する窓口のようです。
ここでは思春期というのは11~18歳位を指しています。では何故本書の対象となる児童の年齢が4~10歳位なのでしょう。実は著者によると、思春期に問題を抱える子どもの多くは学童期(4~10歳位)には一見問題のないとてもいい子、すなわち素直でおとなしく親の言うことをよくきく子であるケースが多いのだそうです。そして思春期の問題の原因は学童期までの親の子どもへの接し方に起因する事がほとんどなのだそうです。著者によると学童期に子どもの基本的な心のありようが決まるのだそうです。だからこそのタイトルなんですね。ちなみに例えば同じ登校拒否であっても、学童期と思春期では立ち直りに要する時間は学童期の方が短くて済むケースが多いそうです。そういう事もあって親の接し方を改善するならば学童期の内に、という事のようです。10歳までに親が変われば子どもは大きく変わるとも書かれています。
自分には関係ないと思われる親御さんも多いかと思います。それは結構なことですが、私自身よくよく読んでみると反省すべき点がいくつか浮かび上がってきました。子どもへの接し方であの時これはいけなかったなとか、こういう傾向はウチの子にも少し見られるかも、とか若干心配を感じることもありました。
本書の第1章は『「10歳まで」が大切なわけ』です。ここでは10歳までの時期が子どもにとって精神面でどういう時期なのかを解説しています。学童期とは個人の生き方のベースができる時期なのだそうです。この時点ではまだそのベースは固まりきっていません。なので親がそれまで間違った対応をしていても、ここで気がついて改善できればまだ問題は大きくならずに済むことが多いそうです。
第2章は『「よい子」は思春期に悩み始める』です。学童期まではいわゆる「よい子」だった子どもが、思春期になり心のバランスを崩し問題を抱えてしまった実際のケースがいくつか紹介されています。
第3章は『「よい子」のどこが、なぜ問題? 4つの特徴と「対応の仕方」』です。思春期になって問題を抱えてしまう子どもの4つの特徴をあげて、さらにそれぞれについて親の対応方法を解説しています。この4つの特徴は読むと確かにこれはおかしいなと納得できるものではありますが、日常の中で小さいレベルであれば誰にもあり得ることで、それが問題ないレベルなのか問題があるのかなど考えずに忙しい親はそのままにしてしまう可能性はあるなと感じました。4つの特徴の一つが「自分の主張がなさすぎる子、自分で選べない子」です。こう聞くと確かに問題だと思うでしょう。でもその中の一つの事例として「親の指示に素直に従う」というのがありました。これが問題と言われたら、じゃあどうならいいんだよ!となりますよね。でもまったく反抗しない子には問題が潜んでいる可能性があるのです。要するに程度の問題なんでしょうけど。
第4章は『「悩めるよい子」を育てるかかわり方 問題のある4つの傾向と「お母さんのための処方箋」』です。ここでは子どもが第3章で解説されたような特徴を持ってしまう原因が主に親にあり、親のこういうところが問題を起こしやすいということを解説しています。共通しているのは子どもを自分とは別の一人の人間として十分に尊重していないということのようです。そう言うと多くの親御さんは「自分は違う」と思われるかも知れませんが、思春期外来に来る子どもの親の多くが「子どものため」と自分では考えていて(ここ重要)、実は間違った子どもへの接し方をしているそうです。この章は、日頃の接し方に問題がないか自分で客観的に振り返るいいチャンスになると思います。
第5章は『10歳までの「遊び」と「習い事」で子どもを伸ばす』です。学童期に子どもが色んな事を学ぶ大切な場が「遊び」です。遊びを通して子どもが成長していくために親が気をつけること、そして親の願いとは裏腹に子ども潰しかねない「習い事」についてやはり親が気をつけることを解説しています。遊びに関する親の態度について、理想的なのがちびまる子ちゃんのおじいさんだそうです。面白いなと思うとともに妙に納得もしました。なぜちびまる子ちゃんのおじいさんなのかの理由は本書を読んでみてください。そして「習い事」ですが、ここに衝撃的な記述がありました。児童虐待にかかわるNPO法人を運営されている方が「この世からピアノとバイオリンを消してしまいたい」と言っていたというのです。こんな事を言わせる現実があるのだなと驚きましたが、他人事と考えず他山の石としたいところです。
誰しも自分の子どもに摂食障害、自傷行為、登校拒否、引きこもりなどの問題を抱えさせたくはないでしょう。たまにはこういう専門家の解説を読んでみるのも決して無駄ではないと思いますよ。
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