作 ヘルガ・ガルラー
訳 やがわすみこ
発行 偕成社
初版 1973/7/
対象年齢 3歳から
文字の量 かなり少なめ~やや少なめ
ページ数 24
発行部数 不明
オススメ度 B
まっくろネリノ のあらすじ・内容
まっくろネリノは両親と4人の兄さんとの7人家族。
他の家族はみんなカラフルなキレイな色をしているのに、ネリノだけはまっくろです。暗いところでは姿が見えなくなるほど。兄さん達はそんなネリノを遊びの仲間に入れてくれません。ネリノはいつも寂しい思いをしていました。
そんなある日、突然兄さん達がみんな行方不明になってしまいます。父さん、母さんとネリノは探し回りますが、見つかりません。
まっくろネリノ の解説・感想
ネリノの家族は独特の画風からなんとなく『となりのトトロのススワタリ』を想像させますが多分小鳥です。1枚を除いてすべての絵が暗い背景になっていて、文がすべてネリノの語りということもあって、この絵本全体がネリノの心象風景であるかのような印象も受けます。暗い背景の中に描かれるネリノの家族や花などは美しいです。その美しさは手持ち花火やホタルのような暗闇の中の小さな美しさのように見えます。文が少なくまったく文のないページもあって、お話も非常にシンプル。静かにネリノの心を見つめるような作品です。
実際のところネリノは孤独に悩んでいます。そしてその孤独の原因であろう自分の体色について考え、自分なりに対策を考えたりもします。そして兄さん達が行方不明になったことをきっかけに自分の体色に今まで気づかなかった価値があることを知り、且つ孤独から抜け出すのです。ネリノが孤独であっても投げやりになったりすることなく自分なりに誠実に生きているところに好感が持てます。またネリノがまっくろであることは優劣の問題ではなく個性であり、またその個性によって輝くこともできるということが示されているのもいいです。
しかしこのような大人から見た解釈は、子どもがこの絵本を面白いと思うかという問題とまったく別次元です。さてさてこのような一見地味な作品が受け入れられるのだろうかという疑問も当然出てくると思います。私もその点について気になってネットで色々と調べてみたのですが、意外にも子どもに受け入れられるようなんですね。でも正直何故かはわかりません。ネリノの一人称の語りスタイルが子どもにとって親しみやすいのか、独特の絵の雰囲気に惹かれるのか、救出劇に心躍るのか(まったくそういうタイプの作品ではないですけど)、はたまた意外と孤独というものに興味を持つのか。子どもにもよるでしょうしね。しかしこの本自体がネリノのように個性的で他にあんまりないタイプのものであることは言えるかと思います。
この作品はオーストリア子供の本最優秀賞を1968年に受けています。日本での発売が1973年でその後ずっと今に至るまで版を重ねています。
因みに本書の他にも『個性』を大切にするという主旨の絵本をいくつかご紹介していますよ。 → 個性
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