作 ルース・エインワース(エインズワースという呼び方の方が一般的かも)
訳 石井桃子
絵 堀内誠一
発行 福音館書店
初版 1976/4/1
対象年齢 4歳から 自分で読むなら小学校初級向き
文字の量 やや少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 A

こすずめのぼうけん のあらすじ・内容


あるところにこすずめが1羽、お母さんと一緒に木の上の巣に住んでいました。

翼をばたばたと動かせるようになったこすずめにお母さんは飛び方を教え始めます。「初めはそばの石垣の上までよ。」ところが実際に飛んでみると思いの外うまくいったため、こすずめはお母さんの指示に従わずに一人でもっと遠くへ行き、世界を見てこようと飛び続けます。

しかし飛んでいる内にやがて羽が痛くなったり、頭が痛くなったりして、どこかで休まなければいけなくなりました。近くに見えた巣に行ってみると、そこはカラスの巣でした。

こすずめがカラスに巣の中で休ませて欲しいと丁寧にお願いすると、カラスは「お前はかあ、かあって言えるかね?」と訊きました。こすずめは「ちゅん、ちゅん」としか言えません。それでは仲間じゃないからとカラスは巣で休むことを許してくれませんでした。

こすずめはまた他に休める巣を探して飛びます。

こすずめのぼうけん の解説・感想


こすずめは人間の子どもそのまま


このこすずめはホントに人間の子どもそのままです。飛ぶことができることに喜び自信を持ち、好奇心の赴くままに世の中を見て回りたいと願うんですね。読者の子どもはこの絵本の中でこすずめと一体になって冒険する事になるでしょう。そして現実の世界でもこのこすずめと同じように、少しづつできる事が増え、冒険してみたり、失敗したり、お母さんに助けてもらったり甘えたりしながら、成長していくのでしょう。この絵本はそんな子どもを肯定し、見守り、寄り添うような内容の絵本です。もちろんお父さん、お母さんが読まれても楽しめて、心温まるものだと思います。

お子さんの興味をひきそうな要素がいくつか


その後こすずめはいくつか他のの巣を見つけては訪ねます。そしていずれも断られます。ここにはお子さんの興味を引きそうな要素がいくつか含まれています。

  1. 子どもの好きな同じパターンの『繰り返し』で語られます。決り文句で休ませてほしいとお願いし、同じ理由で断られます。『繰り返し』は子どもにもわかりやすいし、繰り返しだとわかると嬉しいらしくて得意げに解説してくれます(笑)。

  2. このこすずめはお母さんの教育がいいのかとても丁寧な言葉づかいで、そこが何とも微笑ましいです。「あの、すみませんが、なかへ はいって、やすませていただいて いいでしょうか?」読者の子どもは聞き慣れない言葉遣いに興味を示すでしょう。それに自分と同じレベルだと思っていたこすずめが大人みたいな話し方ができるものですから、お友達の意外に大人な対応を見たみたいにビックリしちゃうかも知れません(笑)

  3. 鳥の鳴き声が種類によってそれぞれ違うのが子どもの興味を誘いやすいかと思います。「ちゅん、ちゅん」「かあ、かあ」「くう、くう」「ほうほう、ほうほう」「くわっ、くわっ」と5種類あります。小さい子どもは『鳥』という概念を知ってはいても、いろんな種類のいろんな生態の鳥がいることまではよく知らないでしょう。鳥の世界を少し覗くことができるようになっています。



他の鳥達は”知らない大人”


無邪気に他の鳥の巣へ休ませてもらおうと頼みに行くこすずめに、襲われるんじゃないかと私は心配になりましたが、そういう展開は一切ありませんでした。しかし他の鳥達は若干怖そうに描かれているんです。大人ですから体も大きいのですが、こすずめと対比して描かれるのでよけい大きく見えます。読者の子どもにとっては知らない大人と向かい合うのと同じ感覚でしょう。しかもすずめよりもリアルなタッチになっていて図鑑の絵みたいで迫力があるんです。なんか目が怖い。でもそこがやりすぎない程度の味付けになっててハラハラドキドキさせられるんです。読者の子どももこすずめの不安な気持ちを共有することになるでしょう。

安らげる場所がある事の大切さ


やがてもう日が暮れて暗くなってこすずめは飛ぶこともできなくなります。でも、心細くなってきたところにお母さんが探しに来てくれて無事に巣で眠りにつくことになります。ここには、こすずめの心持ちに関する文章は一切ないのですが、安心感に包まれていることでしょうね。とってもいい終り方です。私はこれを見て、帰るところ、安らげるとこがあるから、子どもは冒険もできるのだろうなと改めて感じました。しかしこの場面のことを考えると、読み聞かせはお父さんではなくお母さんがやってあげた方がよりベターだよなぁと思いますね。

外の世界の厳しい面も


他の鳥達がこすずめは鳴き声が違うから仲間じゃないとして巣で休むことを許さないところは、こすずめにとって自分の家族以外の外の世界の厳しい面を初めて知らせる事になります。若干差別的な感じがしなくはありません。酷じゃないかとも思います。しかし彼らには彼らの事情もあるでしょうから一方的な決めつけもできないでしょう。むしろ読者の子どもにとって、相手の立場からも考えてみるきっかけになるかも知れません。また反面教師的に受け止めてもらうならそれもまたありかと思います。現実の外の世界は厳しい面だけではないのですが、そこまではこの絵本では描かれていませんでした。

この美しい絵はなんと堀内誠一さんでした


絵を書かれた堀内誠一さんは『ぐるんぱのようちえん』や『たろうのおでかけ』などの印象が強くて、本作のようなリアルな絵はちょっと意外でした。でも背景がすごくキレイです。人間の生活圏である田園風景から、川や森や池といった自然の風景が描かれます。原作者がイギリスの方でありそちらの自然描写であろうと思われます。

素人考えですけど、鳥っていうのは感情を表情に出すのはかなり難しいと思われます。しかも比較的リアルなタッチなのでなおさら。それでも、こすずめの口元とかしぐさとか微妙な描写から伝わってくるものがあるんですね。これが可愛くて健気で味わい深くていいなと思いました。

文章の量は『やや少なめ』に分類しましたけど、その分類の中ではやや多い方です。堀内誠一さんが絵を手がけられていますし、元々の原作は絵本ではなかったのかも知れません。文章の質も絵本というより児童文学よりの感じが少しします。あんまり焦って早く読ませない方がいいと思います。4歳かもしくはもう少し大きくなってからでも十分楽しめますよ。

本書と同じような子どもの冒険を描いた絵本を他にもご紹介しています。→ タグ『冒険