講演 向井惇子
編  向井ゆか
発行 かもがわ出版
初版 2019/1/15(単行本発行日)
対象 乳幼児~小学生

「どの絵本読んだらいいですか?」 の解説・感想


この本は向井惇子さんという方の絵本に関する講演の内容を文字に起こしたものです。講演は主に一般の親御さんに向けて行われたようです。実の娘さんの向井ゆかさんが本としてまとめています。本書のタイトルは向井惇子さんが書店員としてお勤めの時によく訊かれた質問だそうです。最後の付録として、向井惇子さんが勧める絵本(一部読み物や絵本に関する大人向けの本も含む)の100冊リスト、それに絵本以外の読み物リストも挙げられています。

向井惇子さんは、元々NHKのラジオでお話の朗読をされていたのだそうです。その後、東京や横浜の書店『童話屋』にて読書相談員として働き、お辞めになってからは絵本アドバイザーとして講演などを続けられたということです。残念ながら2017年にお亡くなりになっています。

講演の最初の方で、向井さんがおっしゃっています。「極端なことを言いますが」とことわった上で「赤ちゃんに、本は必要ありません」と。本が害があるということではありません。赤ちゃんには本を読んであげるよりももっと大事な事がありますよ。それは語りかけとコミュニケーションです。(ご参考まで、こんな本も。)そうして言葉に関する土台ができた上で絵本を読んであげてくださいとおっしゃっているのです。ここで私はこの方が信用できる方だと感じました。

あとは読み聞かせる時に注意することとか、子どもがどんな風に絵本を心の栄養として取り込んでいくかとか、絵本を選ぶ時に大事にしたいこととか、色々なことを話されています。

講演会で受けた質問に対する回答なんかもいくつかありました。例えば私も少々引っかかっていたのですが、『おおかみと七ひきのこやぎ』で最後に狼が死んだあとヤギたちは踊って喜ぶんですけど、いくら悪い狼とは言え、これってどうなの?と。これに対する回答もありましたね。

その他に私がなるほどって思ったのは、『おおきなかぶ』で最後にねずみが加わったところでようやくかぶが抜けるところの解説です。ほんの小さなねずみが加わった事で、それまでおじいさんやおばあさんその他大勢が力いっぱい引っ張っても抜けなかったのが、非力なねずみが加わることでやっと抜けるわけです。家族の中で最も力も経験も知識もない子どもにとってこの話はとても嬉しくて励まされるって言うんですね。この視点はなかったです。あと『おおきなかぶ』に関しては、福音館書店のものと他に2冊を読み比べて、どれが一番面白いかなんていう実験もしたりして興味深かったし、ためになりました。

この本の帯にはこんな事が書いてありました。
「この本、元気になるでしょ。(主人公は)どんな逆境にあっても諦めない。人の言うことを丸のみにしないで、自分の価値観でちゃんと生きてゆく。」(本文より)

さて、これが何という絵本の事なのか、子どもの親ならとても気になることでしょう。そこは本書をお手にとって確認していただければと思います。一応ヒントとして、講演会で挙げられた絵本の内、特に長く解説されていた6つの絵本をご紹介しておきましょう。『ちいさなヒッポ』『アンガスとあひる』『どろんこハリー』『あおい目のこねこ』『ロバのシルベスターとまほうの小石』『おおきなかぶ』です。

巻末の絵本のリストには、やはり昔から愛されてきた絵本が並びます。最近の絵本はなかったです。弊ブログでご紹介している本も数多く載っていて安心するとともに嬉しくなりました。ただ、向井惇子さんはこのリストに固執することも戒めておられます。