文 かわむらたかし
絵 さいとうひろゆき
発行 ポプラ社
初版 1972/12/
対象年齢 8歳から
文字の量 やや多め
ページ数 36
発行部数 不明
オススメ度 B

サーカスのライオン のあらすじ・内容


町外れの広場にサーカスがやってきました。見物人が続々とやってきました。

サーカス団の中でもライオンは火の輪くぐりの芸をします。しかし老いたライオンは毎日同じことの繰り返しに元気をなくしていました。若かりし頃のアフリカでの家族との生活や草原を走り回った夢を見たりします。

ある夜、サーカス団のおじさんが元気のないライオンに「散歩でもしておいでよ」と声をかけてくれました。ライオンは服を着て、マスク、手袋、靴を着け、人間に変装して外へ出ました。

外へ出てすぐに一人の少年と出会います。少年はサーカスのファンで何だか元気のないライオンのお見舞いに会いに来たのです。ライオンは自分がライオンであることを気付かれないように気をつけながら、もう遅いからと家へと少年を送っていきます。道すがら、お母さんが入院していていつも一人で留守番をしているという話を聞きます。そしてサーカスの話をしようとピエロの真似をしている時にライオンは足をくじいてしまいます。最後に、明日こっそりライオンを見に来てもいいと話します。

少年はそれから毎日ライオンの檻の前にやってきて、チョコレートのお土産を渡し、お母さんの話を聞かせました。そしてサーカス最終日の前日、少年はお母さんがもうすぐ退院することと、お小遣いがたまったので明日またサーカスを見に来る事を話します。ライオンの目に光が宿ります。「明日は若い頃のように火の輪を5つにしてくぐりぬけてやろう」

ところがその夜更けです。ライオンがうとうとしているとサイレンが鳴り出し「火事だ」という声が聞こえてきました。テントの外をうかがうと、少年のアパートの辺りが赤く見えるではありませんか。ライオンは檻を壊して、くじいた足の痛みも忘れ、風になって飛び出していきます。

サーカスのライオン の解説・感想


悲しいお話です


少年はライオンによって助け出されますが、ライオン自身は逃げ遅れてしまいます。火事翌日のライオンがいない火の輪くぐりの様子を描いた場面も、サーカス団やお客さんがライオンを敬愛していることがうかがわれてますます悲しいです。

私が子どもの頃、正直なところこの手の絵本は好きになれませんでした。あえて手に取ろうという気持ちにはなりませんでした。おそらくカッコいいものとか面白いものが見たいのであって、こういう暗い話はあんまり見たくはなかったのだと思います。何となく教育の押し付けみたいなものを感じることもあったかも知れません。時代のせいもあるのか、考えてみるとこの手の絵本は最近減ってきているように思います。

でもどの子どもも全部私のように悲しそうというだけで敬遠するわけではないでしょうし、もし私が子どもの頃にこの絵本を読んでいたら感動して読んで良かったと思ったかも知れません。このお話を読むことによって多くのものを得る子どももいると思います。

絵本としては密度の濃いドラマ


今本書を手にとってみると、大人が子どものためによくよく練って作られたものであることが感じられます。絵本ではありますがプロットの量は児童文学に近いと思います。老いたライオンが主人公であることで、ある意味大人の気持ちや考え方、強さ弱さを垣間見るような内容にもなっていると思います。

少年が持ってくるチョコレート。実はライオンはチョコレートが好きでないのです。しかし少年の気持ちを無下にするのは忍びないのと、そもそも少年の気持ちが嬉しいライオンはそれが何であれ気持ちとして受け取っているのでしょう。また少年が来た時にライオンは足の怪我を隠します。外で出会ったのが実は自分であることがバレるのがまずいというのももちろんあるでしょうけど、自分の芸を楽しみにしてくれる少年に心配をかけたくないのと、ケガに少年が関わっていると思われたくないというのもあるかも知れません。この辺、実に日本人的、演歌的な感じがします。

教科書にのってました


このお話、昔国語の教科書にのってたことがあるらしいですね。このお話を楽しむには行間を読む的な想像力が若干必要なので、その点適しているのかなと思いました。

老いたライオンが主人公の絵本は他にもありますよ。小さい子どもとはまったく違う立場の人間の気持ちを知るのもいいことでしょう。 → ジオジオのかんむり