作 及川和男
絵 長野ヒデ子
発行 岩崎書店
初版 1984/8/20
対象年齢 8歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 56
発行部数 不明
オススメ度 B

いのちは見えるよ のあらすじ・内容


小学生エリちゃんの家のお隣には盲学校の先生をしている全盲のルミさんとマッサージの仕事をしていて少しだけ目が見えるアキラさんのご夫婦が住んでいます。ルミさんは最近お腹が大きくなってきました。赤ちゃんが生まれるのです。そんな中アキラさんが足を骨折して入院してしまいました。

夏休みに入ってすぐの朝、ルミさんの助けを求める叫び声を聞いたエリちゃんが駆けつけると、転んでしまったエリさんがお腹が痛いと苦しんでいます。すぐに119番に電話しました。どうやら陣痛が始まったようです。

エリちゃんは一緒に救急車に乗り、後から駆けつけたママとともに出産に立ち会います。そしてルミさんは無事女の子を出産。エリちゃんは感動的な体験をしたのでした。

エリちゃんが退院したルミさん母娘を訪ねると、赤ちゃん(のぞみちゃん)は真っ赤な顔で泣いていました。ルミさんは匂いや手の感触、味などを確かめながら器用におむつ替えをします。ある日、また訪ねた時にはのぞみちゃんの顔がルミさんに似ている事、そしてのぞみちゃんが笑ったように見えた事など、ルミさんに教えてあげました。そしてまた「ルミさん、見えたらいいのにね」と言ってしまい、後悔します。でもそれに対してルミさんは「いのちは見えるよ」と答えたのでした。

それからエリちゃんは命が見えるってどういう事だろうと考えます。お父さんやお母さんにも聞いてみるのでした。

いのちは見えるよ の解説・感想


出産の一部始終に立ち会うというすごい経験


上のあらすじではさらっと書いていますけど、病院での出産にまつわるエピソードは22ページにも渡ります。(見開き2ページで1場面というテンポなので11場面ということになります。)陣痛が始まってから出産、産湯に浸かるまでと一部始終を間近で見たわけで、新たな命の誕生という大人でさえ心動かされるであろうことですから、小学生の女の子としてはすごい経験だと思います。実際エリちゃんは感動して泣いてしまい、ママにしがみつくのです。読者の子どもも直に見るわけではないにせよ、心に響くものがあると思いますよ。

赤ちゃんのチカラ


前半は出産の様子が山だとすると、後半の山はルミさん家族がのぞみちゃんを連れて教室に来てくれることです。のぞみちゃんを抱っこした生徒達はみんな自然にニコニコするんです。確かに誰でもそうなっちゃいますよね。赤ちゃんほど『命』を感じさせてくれる存在はないかも知れません。赤ちゃんの力ってすごいなと私も改めて思いました。弟や妹のいない生徒にとっては赤ちゃんと接する機会はあんまりないかも知れません。いい経験になったのだろうなと想像します。

なぜ盲目なのか


ルミさんはとても強く優しい芯のある女性です。読者の子どもにこういう大人の背中を見せるのはとてもいいことだと思います。でもなぜルミさんが盲目という設定なのか少々引っかかりました。もしかしたら実在の人物がモデルになっているのではないかと思って調べて見ましたがそういうエビデンスは見つかりませんでした。ルミさんはオムツ替えの時に、臭いを嗅いだり、お尻をさわった手を舐めてみたり、ウンチをさわって状態を確認したり、視覚以外の四感をフルに使っています。というものを読者の子どもにも色んな感覚を通して感じてもらうために、あえて盲目という設定にしたのかなとも思いました。また作者が意図したかどうかは別として、読者の子どもが目の見えない人に対して抱く心持ちによい影響を及ぼすのではないかと思われます。

「いのちは見えるよ」の意味


見えないはずのルミさんから発せられる「いのちは見えるよ」という言葉は、とても鮮やかな響きがあります。この言葉の意味は理屈で説明できる類のものではないでしょう。エリちゃんはこのお話の中の色んな体験を通してこの言葉の意味をエリちゃんなりに感じることができたように思われます。でも本当の意味で感じる事ができるのは将来エリちゃんがママになった時なのでしょうね。

子どもの目ヂカラが感じられる絵


絵は筆で書かれたように見えます。素人目に筆で人間を描くのってなかなか難しいと思うのですが、この絵本では人物の表情がホントにいきいきとしています。子どもの目ヂカラが感じられます。しかも内の感情が描き分けられていて、エリちゃんの表情なんて場面ごとに微妙に違うんです。これはプロの仕事だ!と(素人が偉そうに)思いました。

自分が生まれてきた時の話を聞くということ


小学校で自分が生まれた時の事を調べるという課題が出ることがあるようですね。そんな時にこの絵本を読んだら、自分の事も絡めてより深く考え、感じられるかも。そういう課題がないとしても、この絵本をきっかけにして、読者の子ども自身が生まれてきた時の事を親御さんから話してあげたら、子どもにとってとても嬉しい経験になるでしょう。そして親御さんにとってもいい時間になると思うのです。

56ページもありますし、エリちゃんが小学生であること、『いのちは見えるよ』というような小さい子にわかりにくいであろう表現方法などもあって、対象年齢は8歳からにしました。難しい言葉がいくつかあります。『盲学校』『陣痛』『婦長さん』『分娩室』など。まあこれらは必要に応じて教えればいいでしょう。漢字もそこそこ含まれています。一部の漢字にはふり仮名がありません。この辺も自分で読むならちょっと手伝ってあげる必要があるかも知れません。