文 長谷川摂子
絵 降矢奈々
発行 福音館書店
初版 1997/8/15
対象年齢 4歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 A

おっきょちゃんとかっぱ のあらすじ・内容


おっきょちゃんは小さな女の子。きよという名前ですがいつのまにかおっきょちゃんと呼ばれるようになりました。

ある日おっきょちゃんが川で一人で遊んでいるとカッパのガータロが現れました。川の中のお祭りなので遊びに来いと誘います。おっきょちゃんは浴衣に着替えてお土産にきゅうりを数本もぎとると、ガータロと水中へ行きます。

ガータロと水底のお祭りを楽しんでいると、大人のカッパ達が「人間だ、人間だ」とおっきょちゃんを取り囲みました。しかしおっきょちゃんがお土産のきゅうりを差し出すと、大人達はお客さんとして迎えてくれました。そしてもらったお餅を食べる内におっきょちゃんは地上の事、お父さんお母さんの事を忘れてしまいます。

そうして何日も過ぎていきました。おっきょちゃんははガータロの家族同然に過ごしています。ある日おっきょちゃんは頭の上を何かが流れていくのを見つけます。拾ってみるとそれは小さな人形でした。その人形に何かを感じたおっきょちゃんはそれから誰かと遊ぶ事なく一人で人形を見つめてばかりいました。そして気が付きます。それはお母さんが作ってくれたおっきょちゃんの人形だったのです。

おっきょちゃんとかっぱ の解説・感想


ものすごい完成度


よくある異世界モノですが、この作品の完成度には圧倒されました。ファンタジーって私どっかで下に見てたかも知れませんが、これを読んだらもうホント今まで生意気ですみませんでした、と反省してしまいました。

ドラマチックで美しい絵


何と言ってもこの絵がいいです。緻密に描かれた夏の水辺やカッパの世界の美しさは素晴らしい。視点・構図などが映画のようにすごくアクティブで、ドラマチックです。ぱっと見、絵がメインに据えられていて視覚的に絵の邪魔にならないように文章が配置されているようにも見えます。カッパの体色が赤いというのも最初違和感を感じたけど、この違和感もまたいいのだと後で思いました。郷愁とおどろおどろしさが入り混じったカッパの世界が見事に表されています。この感覚、大林宣彦監督の映画『異人たちとの夏』を見た時の感じに似ています。

短い中に面白さがぎゅうぎゅうに詰まっている


お話もかなり密度が濃いです。冒険の要素、楽しそうな場面、怖い場面、不思議な場面、切ない場面、ホッと安心する場面、あらゆる要素がごった煮のように入っていて名場面の連続。(これ全部紹介したい位ですけど、しちゃったら読むときの感動が薄れると思うのでしません。)映画ならわかるけどこれが一冊の絵本の中に破綻することなく納得感のある形できっちりと収まっています。この絵本を読むことは読者の子どもにとっておっきょちゃんと一緒にすごい経験をしたような充実した読後感を残すんじゃないかな。因みに宮崎駿監督の名作『千と千尋の神隠し』に雰囲気が似ていますし、共通点も多いです。

大人の世界も子どもは面白い


大人の世界もしっかり描かれます。お祭りで突然おっきょちゃんが大人のカッパ達に取り囲まれる場面。見ず知らずの大人でありしかも妖怪となれば、子どもからしたらとても怖いでしょう。でもおっきょちゃんはちゃんと挨拶して仁義を切ることで受け入れられます。まあ実態はきゅうりがたまたま良かったのですが、でもおっきょちゃんの態度は読者の子どもにはちょっと眩しいかも知れません。あと、上記のあらすじに書いたその後おっきょちゃんが地上の生活を思い出して帰りたがるのですが、カッパの世界の住人になった子どもが地上へ戻るのは基本的に無理なことなのです。困ったガータロの両親は『ちえのすいこさま』に相談することにします。『ちえのすいこさま』はカッパの長老のような存在。そのキャラクターは読者の子どもに畏怖の念を抱かせるかも知れません。大人、あるいは大人のルールをしっかり描くということは、実は子どもにとって新鮮であるし、また成熟した本物に対する憧れのようなものを感じさせるのではないかと思います。

綿密な設定


細かいところの設定も綿密です。あんまり紹介しすぎてもいけないので詳細は言いませんけど、カッパの国のおもちゃやお金、おっきょちゃんが地上に帰るための呪文など、まあよくよく考えられています。これらもまたリアリティを支えていますね。

隠れた意味合いも


あえてお話の中では明示はされていないのですが、最初のページでは子ども達が水遊びをしている横でおっきょちゃんは一人服を着てそれを見ています。泳げないからなのか、それとも仲間に入れず孤独なのか…。ガータロに出会う場面でも一人水辺で遊んでいたのです。そこに現れたガータロの存在とそれからの体験はおっきょちゃんにとってどういう意味合いだったでしょう。最後の場面ではおっきょちゃんは友だちと元気に水遊びしています。この物語はおっきょちゃんが成長するお話でもあるようです。そう思って見てみると、最後の方でおっきょちゃんが暗いところを通ってパカッと明るい地上に現れでるところは赤ちゃんが産まれるところにも似ています。再生を暗示しているような気もします。

終り方もいいですよ


最終的にはおっきょちゃんは無事にお母さんの元へ帰ることができますのでご安心ください。子どもにとってこれは大事ですね。終り方もいい余韻が残されて印象的です。

おっきょちゃんとガータロの別れの場面もすごくよかったな。あっ、説明しすぎなので、もうこの辺でやめときましょう(汗)。とにかくお手にとって見ていただきたいです。

絵本の裏には『読んであげるなら 3歳から 自分で読むなら 小学校初級向き』と書いてありました。3歳でも楽しめるとは思うのですが、ここまで作り込まれた素晴らしい作品なのでもうちょっと大きくなって4歳くらいから存分に楽しんでもらいたいと思ってあえて4歳からにしました。小学生も十二分に楽しめますよ。

長谷川摂子さんと降矢奈々さんのコンビの作品『めっきらもっきらどおんどん』も読んだことがあります。こちらも同じく異世界へ行った子どもが帰ってくるお話です。個人的にはおっきょちゃんの方が好きですけど、こちらも名作ですよ。