作 筒井頼子
絵 林明子
発行 福音館書店
初版 1988/1/30
対象年齢 2歳から 4歳むき
文字の量 かなり少なめ
ページ数 24
発行部数 不明
オススメ度 B

おいていかないで のあらすじ・内容


あやこがお人形で遊んでいると、同じ部屋にいたお兄ちゃんがそーっとこっそり出かけようとします。虫取り網と虫かごを持って。あやこはそれに気づいて「私も行く!」と言います。

しかしお兄ちゃんは邪魔だからダメだと言い、これで遊べとお人形を押し付けます。あやこは「今寝かしつけたばかりなのに」と言ってお人形を寝かせてまた布団代わりの布をかけてあげます。その間にお兄ちゃんはまたこっそり出ていこうとしました。でもあやこが玄関でお兄ちゃんをつかまえます。

お兄ちゃんはもう遊びに行くのはやめると言って、本を読み始めました。あやこも隣で本を読み始めます。しかしあやこはだんだん眠くなってきました。うとうとしている隙にお兄ちゃんは窓からこっそり抜け出そうとします。

おいていかないで の解説・感想


私も大好きな筒井頼子さんと林明子さんのゴールデンコンビの作品は既に5作品ご紹介してきましたが、とうとう今回が最後のご紹介となります。 → 『あさえとちいさいいもうと』『いもうとのにゅういん』『はじめてのおつかい』『とんことり』『おでかけのまえに

お兄ちゃんの気持ちもあやこの気持ちもよーくわかるけど読者はあやこ寄りかな


今回は今までの作品になかった兄と妹のお話になります。男の子と女の子ということで、その違いから生まれる今までにない味わいがあります。

お兄ちゃんとあやこはちょっと年が離れているみたいです。お兄ちゃんは小学校中学年位に見えます。あやこはまだ幼稚園・保育園の年中さん位でしょうか。だから同年代のお友達みたいに二人で遊ぶのは難しいでしょうね。お兄ちゃんはその世代の男の子らしい自分の世界で思い切り遊びたいんです。あやこは小さい女の子らしくお人形遊びが好きですが、お兄ちゃんの真似事もしたいし、お兄ちゃんが大好きなのでしょう。どっちの気持ちもよくわかりますが、私としてはお兄ちゃんにあやこを連れて行ってあげてほしいなと、ちょっとハラハラします。読者の子どもも対象年齢からしてあやこの立場から見ることが多いでしょうから、同じようにハラハラするかも知れません。

安心して本を閉じられます


最終的にはお兄ちゃんが折れてあやこを虫取りに連れて行ってくれます。年が離れている事もあって、お兄ちゃんもあやこがかわいいので邪険にできないのでしょうね。出発する時「途中でおしっこだなんて言うなよ」とお兄ちゃんに言われ、あやこはトイレに。そして一人で靴を履く間もお兄ちゃんは待っててくれます。そして玄関を出るとあやこは「はやく、はやく」と満面の笑みで先に駆け出します。微笑ましいお話の閉じ方です。お兄ちゃんはもういやいや連れて行く感じではありません。しょうがないなあというちょっと上から目線の感じはありますけど、あやこが喜んでいるのが自分でも満足そうな様子。もしいやいやなところが見えたらとても読者の子どもにとって悲しい事でしょうが、そうではなかったのもホントによかったです。

林明子さんの絵本は、大抵表紙の絵なども物語の一部となっています。お話としては玄関を出てあやこが駆け出すところで終わりなのですが、その次の1ページには文章無しで、あやこがトンボを見つけてお兄ちゃんに「トンボとって!」と言ってるらしき場面が描かれています。そしてさらに裏表紙にはお兄ちゃんがつかまえたトンボを手につまんであやこに見せる姿が描かれています。読者の子どもはそれらを見て、ホントによかったなと安心できることでしょう。そして表表紙に戻ると、自分には大きすぎるお兄ちゃんの野球帽を被り、虫かごの中のトンボをみつめるあやこの姿が。初めて読む時は表紙の絵に何の感慨もないでしょうが、一度読んでから本を閉じた時に、これはそういう場面だったんだと読者が発見するようになっています。

この年齢の子どもの姿が超リアルに


あやこを見ているとその年代の子どもらしいかわいさいじらしさがところどころに見て取れます。お兄ちゃんをつかまえる時、あやこがシャツの裾をぎゅっとつかむ姿。寝かしつけた人形をお兄ちゃんがつかんでしまって、またよしよしと寝かしつける姿。お兄ちゃんが「本でも読むさ」と言うとあやこも「本でも読むさ」と口調を真似するところ。トイレの前でパンツを脱ぎ捨てて用を足すところ。絵にも文章にも子どものリアルな姿が描かれていて、大人はそれを堪能できるでしょうし、子どもも自分と同じ目線の登場人物に共感することでしょう。

お兄ちゃん笑えるよ


兄妹のあの手この手の攻防として見ても面白いです。特にお兄ちゃんの知恵を絞った作戦が笑えますね。お兄ちゃんが寝そべって本を読み始めた時、お兄ちゃんのお腹の下辺りに何かあるんですね。なんだろう?…あっ!笑える~!(ここは見てのお楽しみ)。この絵本、お兄ちゃんの立場の子どもに読ませたら、それはそれで楽しんでもらえそうな気がします(笑)

作中に出てくる本は


余談ですが…途中で兄妹は本を読みますが、あやこが読んでいるのが『おだんごぱん』、お兄ちゃんが読んでいるのが『くまのパディントン』のようです。想像される年代通りの対象年齢の本が選択されていますね。

このゴールデンコンビの絵本は名作揃い


筒井頼子さんと林明子さんのコンビの作品はこれで6作すべてご紹介しました。いずれも小さな子どもの日常の何気ないありふれた出来事をリアルに描いた大人も子どもも楽しめる上質で微笑ましい作品ばかり。そういうスタイルの絵本って他には意外にないんですよね。貴重なんです。もっともっと他にも作品を見せてもらいたかったなというのが正直なところです。6作はすべておすすめです。未見の作品があれば是非ご覧になってください。因みに本作と『おでかけのまえに』は他の作品よりも若干低年齢向けの作品です。