作/絵 エミリー・アーノルド・マッカリー
訳 津森優子
発行 文溪堂
初版 2013/4/
対象年齢 10歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 B
今から百年ほど前。パリは世界中の旅芸人が集まってくる場所でした。そこで一番の宿がマダム・ガトーが営む宿屋でした。マダム・ガトーと娘のミレットはお客さんにくつろいでもらえるよう、一生懸命働いていました。ミレットは仕事の合間に旅芸人達が話す旅の途中の出来事などに耳を傾けるのが好きでした。
ある日、この宿に一人の男が客として訪れます。悲しい顔をした男はゆっくり休みたいと言います。引退した綱渡り師のベリーニでした。ミレットは次の日にベリーニが中庭にロープを張って綱渡りをしているのを見かけます。ミレットはベリーニに綱渡りを教えてほしいと頼みますが、断られます。しかし、毎日ベリーニが綱渡りをする様子を見ていたミレットはとうとうベリーニに内緒でこっそり綱渡りの練習を始めます。一週間ほど後、何とか綱渡りができるようになってきたミレットを見たベリーニは、綱渡りを教える事を了承してくれました。ミレットはさらに上達していきます。しかし調子に乗るミレットをベリーニはきつく戒めるのでした。
ある晩、ミレットは旅芸人達の会話から、ベリーニが高名な伝説の綱渡り師だったことを知ります。ミレットはベリーニに自分も一緒に連れて行ってほしいと頼みますが、断られます。ベリーニには事情がありました。綱渡りに恐怖心を覚えるようになり、昔のような芸ができなくなっていたのです。それを聞いたミレットは悲しみました。そしてベリーニの方も一晩中悩むのでした。
ヨーロッパの映画を見ているような感覚になる絵本です。何と言っても絵が素晴らしい。当時のパリの活気と少し猥雑な大人達の雰囲気が伝わってきます。全体の半分以上を占める夜の場面では、光と影をうまく使っていてドラマチックです。
私と同年代の人ならば、小学館の国際版少年少女世界文学全集に熱中した人は多いでしょう。私もお小遣いをはたいてそれ目当てに本屋さんによく行ったものです。もはや古本でしか入手できないあのシリーズの魅力は何と言っても絵の迫力でした。私は本書を読んで、あのシリーズの事を思い出しました。もちろん画家さんも違えば、油彩/水彩の違いもあります。でも活きた絵の魅力は近いものがありました。
ストーリーもまた負けずにドラマチックで引き込まれます。少女と男のほんの偶然の小さな出会いがスタートでした。それが綱渡りを教え、教わる過程で徐々に心が通い合ってきます。そして最終的にはそれぞれの人生を大きく変えることになります。ベリーニにとっては失意の中からの再生。ミレットにとっては自分の世界を大きく広げることに。この二人が性別、年代、境遇とことごとく対照的です。ベリーニには家族がいないようでし、ミレットのお父さんはまったく出てこないのでいないのかも知れません。違うからこそ、出会った意味は大きかったのでしょう。そして読者にとってもどちらの心情もくっきりと浮かび上がらせてくれるのでしょう。少女と男のペアというのは一つの典型なのか映画にも名作があるんですよね。『レオン』とか『カリオストロの城』とか。
お話の途中、ベリーニの昔の全盛期の技の数々が描かれる場面があるのですが、笑っちゃう位すごかったです。これは伝説になるわ。本作は女の子が主人公である分、女の子の読者の方が感情移入しやすいとは思いますが、この部分だけは男の子の方が胸踊らせるかも。
本作には続編もあるようなのですが、残念ながら日本語訳はまだ出版されていないようです。
本作は1993年にコールデコット賞を受賞しています。他にもコールデコット賞受賞作をご紹介していますので、是非ご覧ください。 → タグ『コールデコット賞』
そしてコールデコット賞と並ぶ世界的な絵本の賞であるケイト・グリーナウェイ賞の受賞作もご紹介していますよ。 → タグ『ケイト・グリーナウェイ賞』
その後の続きを簡単にご紹介します。ベリーニは決心しました。そして同じ宿に泊まっていた興行師に協力を頼みます。次の日の夕方広場が騒がしくなっていました。神業のベリーニが復活するというのです。ミレットも見に行きました。綱の上に一歩踏み出したベリーニ。しかし何かがおかしい。ミレットは凍りつきました。そして思わずベリーニが渡る綱の反対側まで駆け上がり、自らも綱を渡ってベリーニの方に両手を伸ばします。ベリーニはそれを見てミレットの方へとゆっくり歩みだすのでした。
最後の絵、綱の上の二人を描いた見開き2ページに渡る場面はとても美しいです。暗い背景には夜空の星と家々の窓の明かりがチラチラと。下からの照明が二人に影を作ります。ミレットは両手をベリーニの方へ伸ばしています。ベリーニは「お手をどうぞ」とでも言うように、片膝を綱について片手を恭しくミレットの方へ差し出しています。日本人だとこうはいかない、フランスだな~(笑)。二人の気持ちを思うと、ここはホントに名場面としかいいようがありません。
お話としてはここで締められます。綱渡りがその後どうなったのかはまったく描かれていません。上に説明した最後の場面で大事なことは語り尽くされていますからね。しかしさらにページをめくるとそこには文章のない1枚の絵がポツリとあります。街角に貼り付けられた1枚のポスター。そのポスターにはこう書かれています。『ミレットとベリーニの綱渡り』と。何とも粋でユーモアのある終り方ではありませんか。そしてそのポスターをみつめる一人の少女には、新たな夢の始まりを予感させるものがあります。
訳 津森優子
発行 文溪堂
初版 2013/4/
対象年齢 10歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 B
つなのうえのミレット のあらすじ・内容
今から百年ほど前。パリは世界中の旅芸人が集まってくる場所でした。そこで一番の宿がマダム・ガトーが営む宿屋でした。マダム・ガトーと娘のミレットはお客さんにくつろいでもらえるよう、一生懸命働いていました。ミレットは仕事の合間に旅芸人達が話す旅の途中の出来事などに耳を傾けるのが好きでした。
ある日、この宿に一人の男が客として訪れます。悲しい顔をした男はゆっくり休みたいと言います。引退した綱渡り師のベリーニでした。ミレットは次の日にベリーニが中庭にロープを張って綱渡りをしているのを見かけます。ミレットはベリーニに綱渡りを教えてほしいと頼みますが、断られます。しかし、毎日ベリーニが綱渡りをする様子を見ていたミレットはとうとうベリーニに内緒でこっそり綱渡りの練習を始めます。一週間ほど後、何とか綱渡りができるようになってきたミレットを見たベリーニは、綱渡りを教える事を了承してくれました。ミレットはさらに上達していきます。しかし調子に乗るミレットをベリーニはきつく戒めるのでした。
ある晩、ミレットは旅芸人達の会話から、ベリーニが高名な伝説の綱渡り師だったことを知ります。ミレットはベリーニに自分も一緒に連れて行ってほしいと頼みますが、断られます。ベリーニには事情がありました。綱渡りに恐怖心を覚えるようになり、昔のような芸ができなくなっていたのです。それを聞いたミレットは悲しみました。そしてベリーニの方も一晩中悩むのでした。
つなのうえのミレット の解説・感想
いい映画を見ているよう
ヨーロッパの映画を見ているような感覚になる絵本です。何と言っても絵が素晴らしい。当時のパリの活気と少し猥雑な大人達の雰囲気が伝わってきます。全体の半分以上を占める夜の場面では、光と影をうまく使っていてドラマチックです。
私と同年代の人ならば、小学館の国際版少年少女世界文学全集に熱中した人は多いでしょう。私もお小遣いをはたいてそれ目当てに本屋さんによく行ったものです。もはや古本でしか入手できないあのシリーズの魅力は何と言っても絵の迫力でした。私は本書を読んで、あのシリーズの事を思い出しました。もちろん画家さんも違えば、油彩/水彩の違いもあります。でも活きた絵の魅力は近いものがありました。
少女と男の組み合わせがいい
ストーリーもまた負けずにドラマチックで引き込まれます。少女と男のほんの偶然の小さな出会いがスタートでした。それが綱渡りを教え、教わる過程で徐々に心が通い合ってきます。そして最終的にはそれぞれの人生を大きく変えることになります。ベリーニにとっては失意の中からの再生。ミレットにとっては自分の世界を大きく広げることに。この二人が性別、年代、境遇とことごとく対照的です。ベリーニには家族がいないようでし、ミレットのお父さんはまったく出てこないのでいないのかも知れません。違うからこそ、出会った意味は大きかったのでしょう。そして読者にとってもどちらの心情もくっきりと浮かび上がらせてくれるのでしょう。少女と男のペアというのは一つの典型なのか映画にも名作があるんですよね。『レオン』とか『カリオストロの城』とか。
ベリーニすげぇ
お話の途中、ベリーニの昔の全盛期の技の数々が描かれる場面があるのですが、笑っちゃう位すごかったです。これは伝説になるわ。本作は女の子が主人公である分、女の子の読者の方が感情移入しやすいとは思いますが、この部分だけは男の子の方が胸踊らせるかも。
本作には続編もあるようなのですが、残念ながら日本語訳はまだ出版されていないようです。
本作は1993年にコールデコット賞を受賞しています。他にもコールデコット賞受賞作をご紹介していますので、是非ご覧ください。 → タグ『コールデコット賞』
そしてコールデコット賞と並ぶ世界的な絵本の賞であるケイト・グリーナウェイ賞の受賞作もご紹介していますよ。 → タグ『ケイト・グリーナウェイ賞』
最後がいいんです
その後の続きを簡単にご紹介します。ベリーニは決心しました。そして同じ宿に泊まっていた興行師に協力を頼みます。次の日の夕方広場が騒がしくなっていました。神業のベリーニが復活するというのです。ミレットも見に行きました。綱の上に一歩踏み出したベリーニ。しかし何かがおかしい。ミレットは凍りつきました。そして思わずベリーニが渡る綱の反対側まで駆け上がり、自らも綱を渡ってベリーニの方に両手を伸ばします。ベリーニはそれを見てミレットの方へとゆっくり歩みだすのでした。
最後の絵、綱の上の二人を描いた見開き2ページに渡る場面はとても美しいです。暗い背景には夜空の星と家々の窓の明かりがチラチラと。下からの照明が二人に影を作ります。ミレットは両手をベリーニの方へ伸ばしています。ベリーニは「お手をどうぞ」とでも言うように、片膝を綱について片手を恭しくミレットの方へ差し出しています。日本人だとこうはいかない、フランスだな~(笑)。二人の気持ちを思うと、ここはホントに名場面としかいいようがありません。
お話としてはここで締められます。綱渡りがその後どうなったのかはまったく描かれていません。上に説明した最後の場面で大事なことは語り尽くされていますからね。しかしさらにページをめくるとそこには文章のない1枚の絵がポツリとあります。街角に貼り付けられた1枚のポスター。そのポスターにはこう書かれています。『ミレットとベリーニの綱渡り』と。何とも粋でユーモアのある終り方ではありませんか。そしてそのポスターをみつめる一人の少女には、新たな夢の始まりを予感させるものがあります。
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