作 シャーロット・ゾロトウ
絵 酒井駒子
訳 同上
発行 あすなろ書房
初版 2019/4/15
対象年齢 4歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 B

ねえさんといもうと のあらすじ・内容



あるところに、姉さんと妹がいました。

姉さんは何をやるにも妹のことを気にかけました。あれこれと教えてあげました。妹が泣いてしまった時には、優しく肩を抱いて「さあ、おはな ちんして」と言うのでした。妹は、姉さんは何でもできるのだと思っていました。

ある日、妹はふと一人になりたくなり、家を出て草原に入ります。一人で寝転んで、さっき姉さんが用意していたレモネードとクッキーの事を考えたりしていました。

やがて姉さんが突然いなくなった妹を探しにきました。でも背が高い草に阻まれているので妹の姿は見えません。妹も返事をせずに黙って隠れていました。

その内、姉さんは妹が見つからないために座り込み泣き出してしまいます。

ねえさんといもうと の解説・感想



幼い頃の一瞬を映し出した詩情豊かな絵本



本当に小さな小さな出来事。でもこの妹にとっては人生の中の大事なステップ。そんな一瞬を鮮やかに切り取った詩情豊かな絵本です。

姉さんの方は小学校中学年以上かな。妹は幼稚園位でしょうか。このお話は姉妹だからいいんですよね。

妹にとって



それまで何でも姉さんの言う通りだった妹が自立へと向かって小さな一歩を踏み出します。妹の世界を見る目が少し開いた瞬間です。一人の時間、そして自由であることの楽しさを知ります。自分が姉さんのように自分で何かができることを知ります。

姉にとって



姉さんは、姉さんの役割を頑張っていました。楽しんでもいました。お母さん的な気持ちもあったかも。でもまだ子どもでもあります。そりゃあ泣くこともあるでしょう。今回自分の弱い部分を妹に見せた経験は姉さんにとっても成長を促すことになるのでしょう。

続きは秘密



泣き出した姉さんに対し妹はどうするのか、続きは絵本を手にとってご覧ください。姉妹の仲の良さは今まで通り、でも関係性は微妙に今までと違った形になります。今後二人が成長していくにつれて、それはまた少しづつ変化しながら、でも仲良くつながっているのでしょう。

この絵本は万人ウケするタイプではない…かも



ただ、この絵本は素晴らしい作品ではありますが、一方ですべての子どもにウケるというようなタイプでは多分ないでしょう。多くの子どもが惹きつけられるようなダイナミックな展開や面白い仕掛けはないですしね。むしろ大人に好まれる絵本かな。

読み手の年代により感想は異なるでしょう。対象年齢4歳からにしましたが4歳位の子どもなら妹の境遇や気持ちの方に理解や共感をもてるかな。自分自身がお姉ちゃんである立場の読者ならば姉さんの方に比較的感情移入しやすいでしょう。心理を味わうことで楽しむ絵本なので、これに興味を持ったり、大好きな絵本になったりする子は、文学好きになりそうな気がしますね。

親の立場としても楽しめる



この絵本では姉妹のお話になっていますが、小さい子どもを持つ親の立場としても楽しめるのではないかな。少しづつ成長していく子どもに、嬉しいやら、ちょっぴり寂しいやら、そんな複雑な気持ちを抱く親御さんもこの絵本に感慨を抱くでしょう。

元々は絶版となっていた作品



この作品は元々福音館書店から、マーサ・アレキサンダーさんの絵とやがわすみこさんの訳で絵本として出版されていたのですが、今現在は絶版となって入手困難のようです。その絵本が1974年の初版ですから、子どもの頃に親しんだ方も多いのではないかな。



酒井駒子さんの絵がマッチしすぎて怖い(笑)



それを今回、酒井駒子さんが絵と訳を担当されてリメイクされたのが本作。シャーロット・ゾロトウさんの元の原作、酒井駒子さんの絵、両方を愛する方にとっては諸手を挙げて歓迎されるタッグでしょう。絵とお話の一体感は尋常じゃないです。酒井駒子さん自身がこのお話に惚れ込んで作られたのだろうなと推察されます。私の好きな林明子さんとはまた違った独特の世界観で描かれた二人の姿には心の奥の方までも想像が広げられます。男の私が言うと若干変態チックに聞こえるかも知れませんが、美しさと可愛さが共存する女の子というものを存分に表現されています。野菊の咲く草原の自然も美しいです。

酒井駒子さんの他の作品もご紹介しています。 → 『ビロードのうさぎ』『よるくま』『ぼく おかあさんのこと…』『はんなちゃんがめをさましたら』『こりゃまてまて

林明子さんが姉妹を描いた絵本もご紹介していますよ。こちらはどちらかと言うとお姉ちゃんの立場に軸足がおかれています。『ねえさんといもうと』はちょっと抽象的なところがありますが、こちらは具体的でお子さんもとっつきやすいと思います。 → 『あさえとちいさいいもうと』『いもうとのにゅういん

シャーロット・ゾロトウさんの他の作品もご紹介しています。 → 『なかなおり』 こちらも日常の小さな気持ちの変化を描いていますが、絵がアーノルド・ローベルさんということで印象が本作とだいぶ違いますね。